小説「新・人間革命」 友誼の道25  5月30日

 山本伸一は、かつて魯迅が、上海の子どもたちについて記した一文を思い起こした。

 「一歩大通りへ出てみると、眼中に映じて来るのは胸を張って元気よく遊んだり歩いたりしている外国の子供ばかりであって、中国の児童は殆ど見られない。

 しかし決していないわけではない。ただ服装が見すぼらしく、しょんぼりして、外の者に圧されて影法師のようで、目に立たぬだけである」(注)

 そして、この少年の姿は、とりもなおさず中国の「将来の運命」であると警告を発している。

 しかし、今、その中国の子どもたちは、元気はつらつとしていた。どの顔も、希望に輝いているように見えた。

 新中国の成立から二十数年にして、教育は普及し、子どもたちは大切にされ、伸び伸びと育っている。

 そして、衣食住は保障され、革命前と比べて生活は確かに向上したというのが、人びとの実感であるようだ。

 民衆の実感こそが、政治を支える基盤であり、民衆と遊離した政治は、支持を失うことになる。

 伸一は、出会った子どもたちの希望と幸福の未来を、強く祈った。   

 午後三時からは、宿舎の北京飯店で、中日友好協会の代表と座談会が行われた。

 これには、協会の副会長の張香山をはじめ、秘書長の孫平化、理事の林麗■<韋に褞のつくり>、金蘇城、通訳として黄世明らが参加した。

 座談会は、この日が三時間、さらに、三日午前も三時間にわたって行われ、話題は、世界情勢の分析、両国間の諸問題や戦争の本質、平和への課題など、多岐に及んだ。

 その複雑な問題に対して、率直に意見をぶつけ合う、有意義な語らいとなった。

 中国側のメンバーは、世界の情勢を「天下大動乱」という観点でとらえていた。

 伸一も、世界は激動期に入ったと認識しており、基本的な見解は図らずも一致した。

 そして、世界戦争の危険性があり、それを避けるために、平和への最大の努力を払わねばならないという点も、同じ意見であった。

 その危険性の根本要因を、中国側は、米ソの二超大国の対立にあると考えていた。



引用文献:  注 「南腔北調集」(『魯迅選集第9巻』所収)松枝茂夫訳、岩波書店