小説「新・人間革命」 友誼の道44  6月22日

答礼宴を終えた山本伸一の一行は、中日友好協会の廖承志会長、張香山副会長らと共に、北京の人民大会堂に向かった。

 李先念副総理との会見のためである。

 伸一たちが、人民大会堂に着いたのは、午後九時過ぎであった。

 会見会場の入り口に、李先念副総理らが一列に並んで、一行を笑顔で出迎えてくれた。

 李副総理は、過酷な長征を戦い抜いた人らしく、柔らかな物腰のなかにも、質実剛健という雰囲気が漂い、透徹した眼光を放っていた。 

 伸一は、出迎えてくれた一人ひとりと、固い握手を交わした。

 会見会場には、延安(イエンアン)の風景画が掲げられており、天井が高く、広々とした部屋であった。

 席に着き、互いにメンバーを紹介し合ったあと、副総理は言った。

 「今日は、何でも聞いてください」

 親しみにあふれた、友好的な言葉であった。

 「今回の訪中メンバーは青年の代表で、平均年齢は三十五歳です」

 伸一が言うと、副総理は顔をほころばせた。

 「それは、大変に結構なことですね。

 重ねて皆さんの訪中を歓迎いたします」

 それから副総理は、日本と中国の国交正常化に至る伸一たちの努力の足跡を確認するように述べたあと、こう語った。

 「山本先生は、大きな働きをされました。大変に価値あるものです」

 「恐縮です。私は、日中友好のために、世界の平和のために、ただ、ただ、全力投球してきただけです」

 一日一日を、一瞬一瞬を、大いなる目的に向かって、全力で戦い挑むのだ。そこにのみ、偉大なる黄金の歴史を織りなす道がある。

 李副総理は、言葉をついだ。

 「周総理も、山本先生と創価学会には、重大な関心を寄せておられます。本来なら総理が会って、ごあいさつすべきなのですが、総理は今、病気療養中です。

 総理は、『山本会長にお会いしたいけれども、今回はお会いできないので、くれぐれもよろしく伝えてほしい』と申しておりました」

 伸一も後に知ったことであるが、この時、周総理は、五日前に癌の手術をしたばかりであった。