小説「新・人間革命」 友誼の道46  6月25日

 山本伸一は、中国が米ソ二超大国との対決姿勢を示していることから、李先念副総理に、次のように尋ねた。

 「中国は、米ソ以外のいわゆる先進国であるヨーロッパ諸国や日本などとは、いかなる基本姿勢で交流し、どのような方策で臨もうとされていますか」

 副総理は答えた。

 「内政不干渉など、平和五原則を堅持して臨んでいきます。

 現在、これらの国々との関係は、良好に進んでいます。問題によっては意見の食い違いもありますが、しかし、これは許されることではないでしょうか。

 なぜなら、社会の仕組み自体が中国とは異なるからです。

 中国の社会主義化が進んでも、将来にわたって中国の立場や制度を他国に押しつけることはしません。その国の民衆がどのような社会制度を選択するかは、その国の民衆自身だからです」

 伸一は、副総理の言葉に、嘘はないと思った。“真実”の重さを感じた。

 ヨーロッパ統合の父クーデンホーフ・カレルギーは記している。

 「真実は人間を一つに結び、結合させる力を持っている。真実は錯誤と虚偽が人間同士の間に設けた柵を破壊する」(注)

 さらに伸一は尋ねた。

 「私は、一九六九年(昭和四十四年)に、日本は中国との平和友好条約の締結を最優先すべきだと訴えました。

 この平和友好条約は、日中両国の人民ばかりでなく、アジア、そして世界の平和にとって重要なカギであると考えてきたからです。

 この点について、中国側のご意見をお伺いしたいと思います」

 率直な質問であった。

 副総理は、誠実に答えてくれた。

 「日中両国の関係は、現在、正常に発展しつつあります。

 平和友好条約は、できるだけ早い時期に実現したい。しかし、なお残されている政府間実務協定を、きちんと処理しなければなりません。

 また、何よりも、両国人民間の友好を着実に積み重ねていくなかで、平和友好条約の締結を実現していくべきでしょう」

 日本の国にとっても、また、世界にとっても、実に重要な話が語られていった。



引用文献:  注 『クーデンホーフ・カレルギー全集3』鹿島守之助訳、鹿島研究所出版会