小説「新・人間革命」 友誼の道67  7月19日

 杭州(ハンチョウ)の街は雨に霞んでいた。水に濡れた梧桐や柳の緑が、一段と鮮やかさを増していた。

 六月十二日、山本伸一の一行は、西湖と絹織物で知られる浙江省省都杭州にいた。

 前日の十一日、上海で少年宮を訪問したあと、午後七時半に列車に乗り、深夜十一時近くに杭州に着いたのである。

 伸一は、車中での三時間余、同行してくれた孫平化秘書長と、創価学会が何をめざしているか、また、日中関係の未来などについて、盛んに意見を交換し合った。

 孫秘書長は、創価学会を理解してくれている中国の友人である。しかし、さらに深く、創価学会の現状と真実を知ってもらおうと、伸一は必死であった。

 学会を取り巻く状況は刻一刻と変化している。そのなかで、常に正しい認識をもってもらうには、対話し続けていくことが大切になる。また、その内容も、より深まっていかなくてはならない。

 十二日午前、伸一たちは、錦の織物工場を訪問したのである。

 製造過程の説明を受けたあと、製品が色鮮やかに織り上げられ、完成するまでを見学した。優れた技術であった。

 午後、一行は西湖に案内された。西湖は周囲十五キロほどで、緑の山に囲まれた風光明媚な湖である。

 北宋の詩人・蘇東坡が「山色 空濛として 雨も亦奇なり」と詩ったように、雨の西湖には、風情があった。

 船で湖上を巡ったあと、湖畔の花港観魚公園を訪れた。雨は、まだやまなかった。

 一行は、公園の休憩所で雨宿りした。そこには二十人ほどの人が、雨がやむのを待っていた。

 伸一は、気さくに声をかけた。中国の民衆と触れ合うことができる、よい機会である。

 彼は、なんのための訪中かを思うと、わずかな時間も無駄にはできなかった。一人でも多くの人と対話し、友好の絆を結びたかった。

 八億といわれる中国人民である。一人ひとりとの対話は、あまりにも小さなことのように思えるかもしれない。しかし、一滴の水が大河となるように、すべては一人から始まるのだ。一人から開けるのだ。ゆえに、一人を大事にすることだ。