小説「新・人間革命」 友誼の道70  7月23日

 青年は頬を紅潮させて語った。

 「人びとに励まされ、頑張り抜いたという体験は、私の大きな自信になりました」

 続いて、親元を離れ、ここで初めて農作業を経験したという女性も、体験を語り始めた。

 「最初は激しい労働に疲れ果て、体も痛み、食べ物も喉を通りませんでした。そんな日が続き、農業などやめて、両親のもとに帰りたいと思うようになりました」

 彼女は「その迷いを先輩に聞いてもらい、弱い心に打ち勝って、自分を強くすることができました」と言う。

 先輩は、解放前、多くの人民が餓死し、虐殺されていった様子を、自分の生々しい体験を通して語り、こう訴えた。

 「人民が苦汁をなめた時代に、絶対に逆戻りさせてはならない。そのために苦労に耐えて、人民のための社会を、さらに完成させていくのよ」

 その先輩との触れ合いから、彼女は、「人民に奉仕する」自分をつくるには、よき先輩の触発が大事であると強調した。

 人間は一面、弱いものだともいえる。一人になれば、何かあると、思想も、信念も、揺らぎがちなものだ。

 それだけに、自分を励まし、啓発してくれる人が必要となる。

 また、彼女は、解放前の人民の苦しみという原点を忘れないことが大切であると言う。

 そして、若い世代にとっては、先輩から、当時の人民の様子や解放のための苦闘を聞き、体験を共有し合うことが、原点になると語っていた。

 原点に立ち返るならば「なんのため」という根本目的が明らかになり、力が出る。ゆえに、心に原点を刻んだ人は強い。

 新中国の成立から、すでに四半世紀が過ぎようとしている。解放前と比べ、中国は発展したが、かつての惨状を知らない世代が育っている。

 草創の魂、革命精神を失えば、どうしても安逸に流され、腐敗、堕落が始まる。そうなれば、建国の理想は崩れ去っていく。だからこそ、中国は「自己変革」の方途を、必死になって模索しているのであろう。

 山本伸一は、中国の青年たちに活力があることが嬉しかった。青年が生き生きと活躍しているところには、希望の未来があるからだ。