小説「新・人間革命」 友誼の道71  7月24日

人民公社での青年たちとの語らいは、結婚観から、「労働についての考え方」「物質的な繁栄が実現したあとの課題」など、多岐にわたった。

 青年同士が友好を深めるうえでも、中国を知るうえでも、実に有意義な語らいとなった。

 この夜、山本伸一たちが上海でお世話になった方々を招いて、宿舎の錦江飯店で答礼宴が行われた。

 出席者を出迎えた学生部長の田原薫が、一人の青年を見て声をあげた。

 「あっ、ここでお会いできるとは!」

 その青年は、四カ月前に来日した中国青年代表団の一員であった。

 この代表団を歓迎する学生大集会が、東京大学で行われ、創価学会学生部は、この実行委員会の要請を受けて、田原らがこれに参加し、熱烈歓迎したのである。

 席上、あいさつに立った田原は、伸一の「日中国交正常化提言」の精神を踏まえて、「日中の永遠の不戦」「平等互恵の精神で両国の発展を推進する」「日中両学生の友好でアジアの平和と繁栄を図る」ことを訴えた。

 さらに、「あらゆる体制やイデオロギーの壁を乗り越え、中国の青年の皆さんと共に、世界の民衆の幸福のために、力強く前進していきたい」と呼びかけたのである。

 その集会で田原は、この青年と固い握手を交わしていたのである。

 そして、思いがけなくも、ここで対面したのだ。

 伸一は一九六八年(昭和四十三年)の学生部総会で「日中国交正常化提言」を行った時、日中の青年が手に手を取って、友好と平和を誓い合う日を思い描いた。

 彼は、今、手を握り合って再会を喜ぶ二人の青年を見ながら、その夢が実現しつつあることを感じるのであった。

 渓流も、やがては大河となる。日中の友好は青年に受け継がれ、何をもってしても止めることのできない、時代の本流となるにちがいない。

 ビクトル・ユゴーは叫んでいる。

 「光の点は大きくなります。光の点は時々刻々と大きくなります。それは未来です」(注)

 ゆえに、未来のために、今、火をともし、光を掲げることだ。今日、何をするかだ。

 青年の友情が燃え輝くなかに、上海の夜は過ぎていった。



引用文献:  注 「言行録」(『ヴィクトル・ユゴー文学館9』所収)稲垣直樹訳、潮出版社