小説「新・人間革命」  友誼の道73  7月26日

 一切の予定を終えた山本伸一は、孫平化秘書長をはじめ、中日友好協会の関係者と、宿舎の広東迎賓館で、三時間近くにわたって懇談した。

 ここでは、人間をどうとらえるかをめぐって、議論が交わされた。

 伸一は、人間を集団化された階級としてとらえて判別するのではなく、一個の人間という視点に立って、人間を見ていくことが、今後の中国の発展のうえで、大きな力になるのではないかと語った。

 彼は友人として中国の繁栄を願い、誠実に自分の思いをぶつけ、対話に努めた。

 自分の接した身近な人と、信義と友情に結ばれてこそ、本当の意味での国と国との友誼の道も開かれる。眼前の一人と、どこまで心を結び合えるかである。

 また、伸一は、中国滞在中の関係者のこまやかな配慮に、何度も、感謝の言葉を述べた。

 「皆さんと出会え、皆さんの真心に接し、毎日が感動の連続でした。有意義な中国訪問となりました。皆さんと友人になれたこと自体が、訪中の最高の収穫です」

 一国の印象も、身近に接した人によって決まってしまうものだ。大切なのは人である。

 伸一は、最後に、中日友好協会の関係者に、次々と真心の句を色紙に認めて贈った。

 秘書長の孫平化には、「晴れの日も 雨にもかわらぬ 友誼かな」と。

 滞在中、親身になって世話をしてくれた葉啓ヨウと殷蓮玉には、「忘れまじ 世々代々の 歴史旅」「中日の 心と心の 金の橋」と詠んだ。

 北京から同行してくれた陳永昌という青年には、「ともどもに 人民の道 友の旗」との句を贈った。

 すると、孫平化も筆を執った。まず、伸一と峯子に、「中日友好 松柏長青」(中日友好は松、柏のように永遠に)、「友好伝万代」(友好は万代に伝う)と揮毫してくれた。

 さらに訪中団全員のために、「為人民服務」(人民に奉仕する)と認め、その下に四人が署名して贈ってくれたのだ。

 「ありがとうございます。これこそ学会の精神です。共々に、日中の人民、世界の民衆の幸福のために奉仕しましょう」

 伸一と孫平化は、固い握手を交わし合った。