小説「新・人間革命」  7月28日 友誼の道75

 羅湖駅を出発した列車が次の上水駅に停車すると、車内をのぞき込みながら、ホームを走ってくる数人の人たちがいた。

 香港の幹部である周志剛らであった。

 誰もが自由に乗り降りできるのは、この上水駅からである。

 周たちに気づいた山本伸一と峯子は、列車の窓を開けて手を振った。

 「あっ、先生!」

 周をはじめ、メンバーが、列車に乗り込んで来た。周の額には、汗が噴き出していた。

 彼は、満面に笑みを浮かべ、メガネの奥の目を細めて言った。

 「お疲れさまです。中国訪問の大成功、大変におめでとうございます」 

 香港のメンバーは、日本から送られてくる聖教新聞を読み、訪中の様子を知っていたのである。

 「出迎えありがとう。友誼の道を開いてきたよ。香港の皆さんのためにも、中国の平和と繁栄に、私は私の立場で、全力を注いでいくからね」

 周は、自分たちのことを思ってくれる伸一の真心を感じ、心が熱くなるのである。

 車内で伸一は、原稿用紙を取り出し、盛んにペンを走らせ始めた。

 十七日間にわたる中国訪問の終盤から、彼は時間を見つけては、原稿の執筆を始めた。

 出発にあたって、今回の訪中の印象記を書くように、幾つもの新聞や雑誌から依頼されていたのである。

 帰国後のスケジュールは、ぎっしりと詰まっていた。また、中国への共感や賞讃を記せば、非難の的になることは明らかであった。

 しかし、伸一は、すべてを覚悟し、少しでも多くの人が中国のことを知り、理解を深めてほしいとの思いで、勇んで執筆を引き受けたのである。

 「今」という一瞬に、未来を開く勝負がある。だから伸一は、真剣であった。必死であった。全生命を完全燃焼させた。

 この訪中後、彼が書いた原稿は、本一冊分近くになった。それをまとめて、『中国の人間革命』として発刊している。

 伸一は、北京での答礼宴で、こう宣言した。

 「もはや言葉ではありません。私たちのこれからの行動を、見てください!」

 日中の永遠の友好へ、命をかけての、信義の実践が開始されたのだ。   (この章終わり)