小説「新・人間革命」 懸け橋20  8月22日

 ポポワ議長と山本伸一は、言葉を交わし始めてからほんの数分で、基本的な意見の一致をみた。

 ――それは、戦争のない世界をめざして、よき隣人として友好関係を樹立していくことこそ大事である、ということであった。

 ポポワ議長の言々句々には、平和への執念ともいうべき熱情があふれていた。

 彼女は、胸の怒りを吐露するかのように、強い口調で語った。

 「文化を守り抜くためには、ファシズムと戦わなくてはなりません。ファシズムを絶滅しないかぎり、その国の文化は必ず滅びます」

 それは、体験に裏付けられた、歴史の教訓であったにちがいない。

 あの第二次世界大戦ナチス・ドイツは、このモスクワへの侵攻を企てたのである。

 訪ソ第一日、空港からホテルに向かう車のなかで、トローピン副総長は窓の外を指さし、こう教えてくれた。

 「ナチス・ドイツの侵攻に際して、ここに防御線を築いたのです」

 一九四一年(昭和十六年)の十月、ドイツ軍は、北、南、西の三方から首都モスクワに迫り、熾烈な防衛戦が展開されたのである。

 伸一には、ポポワ議長の切実な思いが、痛いほどわかった。

 「議長のおっしゃる通りです。

 ファシズムの絶滅こそ、人類の大命題です。

 創価学会の初代会長は、軍部ファシズムの弾圧と戦って、獄死しました。また、第二代会長もファシズムと戦い、牢獄に入れられました。

 私も、長兄を戦争で失い、青春を犠牲にしました。学会は、永久にファシズムと戦う平和と文化と教育の団体です」

 ポポワ議長は真剣であった。

 目を輝かせて話に聞き入るその姿から、誠実さが伝わってくる。

 伸一は、議長に、率直な提案をぶつけてみた。

 「正直に私の意見を申し上げてよろしいでしょうか」

 真実を語ってこそ、信頼が生まれるのだ。

 議長は頷いた。

 「多くの日本人は、残念ながら、ソ連が好きではありません。ソ連には自由がないと思っているからです」

 議長は、まじまじと伸一の顔を見つめた。