小説「新・人間革命」 懸け橋24  8月27日

 高等中等専門教育省では、V・P・エリューチン大臣が、執務室の入り口で、温かく歓迎してくれた。

 大臣は、山本伸一との意見交換を待ちかねていたかのように、自らの教育観を、情熱を込めて語り始めた。

 「いかなる国においても、文化の基礎は教育にあります。したがって、その国の教育を見れば、国の未来が判断できるのではないでしょうか」

 「おっしゃる通りです」

 初めから話が弾んだ。

 語らいは、伸一たちが問題を提起し、それに大臣が答えるというかたちで進められた。

 「社会の要請に応じた計画的人材育成について」「国際的視野に立った教育の在り方」「専門教育とトータルな人間教育との関連」など、テーマは多岐にわたった。

 伸一は真剣であった。

 大臣は、伸一の発する問いに、「鋭い質問です。緊張してしまいます」などと語りながら、誠実に答えてくれた。

 科学技術の発達に、いかに教育が対応しているかを尋ねると、大臣は語った。

 「科学技術の急速な発達のもとでは、現時点で学んでいる情報そのものが、すぐに古くなってしまいます。

 そこで、これまでに学んだもののなかで、必要な情報をいかに選択し、分析していくかという方法論が大事になります。

 それを教えていくことが、今後の教育のポイントです」

 また、新しい専門的な知識を生かしていくには、個人の全体的な教養と人格が重要になるとして、その人格を培う教育こそが、最も求められていると述べた。

 伸一は力強く語った。

 「全く同感です」

 教育の肝要は、人格の形成にこそある。

 さらに、大臣は、科学技術の進歩にともない、既に社会の第一線で活躍する専門家に対しても、ほかの分野での技術を学ぶために、再教育が必要であることを強調した。

 「一例をあげれば、医師がレーザー光線の利用を学ぶことによって、より近代的な医療が可能になります。その再教育をいかに行うかを、私たちは大きな課題にし、推進しております。教育に終わりはありません」

 教育の絶えざる改革と進歩のなかに、社会の発展があるのだ。