新・人間革命 懸け橋 63

山本伸一は、言葉をついだ。
 「私は公明党を創立しましたが、創価学会と党とは、財政、人事面も分離し、それぞれ独自性をもって運営しています。
 したがって、党のことには、私はタッチしておりませんし、政治の問題は、公明党に任せてあります。
 学会も、公明党も、人類の幸福と平和を実現するという根本目的は同じです。
 しかし、宗教団体と、日々、現実的に対応を迫られる政党とは、立場の違いから、具体的な政策面などで意見が異なる場合もあります。
 また、私ども創価学会が推進しているのは、国家による政治次元の交流というより、民衆レベルでの、大河のように幅広い文化、教育交流です」
 それから伸一は、創価学会の歴史に触れ、学会が軍部政府の弾圧と戦ってきたことを述べた。
 さらに、今や、メンバーの平和のスクラムは、全世界へと広がっていることを語った。
 コスイギン首相は、静かに頷くと、伸一に、こう尋ねた。
 「会長は仏教者として公明党を創立され、大学もつくられましたが、あなたの根本的なイデオロギーはなんですか」
 伸一は即座に答えた。
 「それは、平和主義であり、文化主義であり、教育主義です。その根底は人間主義です」
 首相は、通訳の言葉に目を輝かせた。そして、感嘆したように、会心の笑みを浮かべた。
 伸一の生き方の根本にあるのは、仏法の生命尊厳の哲理を根底にして、人類の幸福と平和を打ち立てることである。人間の生命を磨き、豊かな社会を築き上げることである。つまり、広宣流布であり、立正安国の実現である。
 しかし、それを、そのまま表現したとしても、本当の意味は伝わらないにちがいない。
 戸田城聖は戦時下の獄中で、「仏」とは「生命」であると悟達し、仏法を生活に即した生命の哲学として、わかりやすく展開していった。
 それによって、仏法哲理を現代に開くことができたのである。
 仏法を根底にした私たちの主張や思想も、社会に即した表現がなされてこそ、説得性をもち、人びとの理解と共感を得ることが可能になるのだ。