小説「新・人間革命」 懸け橋67  10月18日

山本伸一は、コスイギン首相の話を受け、ソ連核兵器の廃絶へ、積極的にイニシアチブ(主導権)をとるよう強く望み、こう訴えた。

 「核廃絶を実現していくためには、各国、特に核保有国同士が、深い信頼関係で結ばれることが不可欠といえます。

 国と国とが相互に接触を図り、信頼関係を不断に積み重ねていくことが重要です。

 根底に相互不信がある限り、核兵器の全廃などできようはずがないからです。その意味でも永続的な交流が必要です。

 それには、政治、経済の次元を超えた、文化、教育の交流が大事であるというのが、私の一貫した主張です」

 不信を信頼へ――そこに、人間が共に栄えゆくための、最も重要なカギがある。

 伸一は質問した。

 「人類の未来には、今、テーマになりました核問題をはじめ、環境問題、食糧問題など、さまざまな難問が横たわっております。それらをふまえ、二十一世紀は明るいと見てよいでしょうか」

 首相は答えた。

 「私たちは、そう望んでいます。いえ、そうしなくてはなりません。

 もちろん、そのためには、人類は、これまでの営為それ自体を、再検討すべき時に来ていると思います」

 「首相のおっしゃる通りです。

 大量生産、大量消費という文明の在り方も限界にきております。天然資源も決して無限ではありません。

 これまでと同じ考え方では、人類は完全に行き詰まってしまいます。

 したがって、自然と人間との調和を説く仏法の生命の哲理に、着目する必要があるというのが、私の主張なんです」

 続いて伸一は、食糧問題に言及し、コスイギン首相に提案した。

 「戦争による難民、旱魃や洪水による飢餓に苦しむ人びとなどを救うために、たとえば『世界食糧銀行』ともいうべきものを設置してはどうでしょうか」

 「大事な意見であると思います。

 しかし、食糧問題をどうするかという前に、人類はまず、戦争という考えを捨てなければいけません」

 伸一は、首相の言葉に、平和への熱願と強い決意を感じた。