小説「新・人間革命」 懸け橋70  10月22日

 コミュニケは、「一行のソ連滞在が有意義であり、その間に確立された関係が、将来の日ソ両国民の友好善隣関係を促進させ、それがひいてはアジアと全世界の平和を強化するために役立つものであることを確認した」と結ばれていた。

 コミュニケの調印のあと、相互の親善に対して乾杯することになった。

 音頭を取ったのは山本伸一であった。

 「ボリショイ・カンパイ!」

 皆が笑顔で唱和し、友好のグラスを高く掲げたのである。

 乾杯のあと、ポポワ議長は、感極まった顔で、出席者に呼びかけた。

 「皆さん。山本会長はソ日友好の第一歩を踏み出され、道を開いてくださいました。さあ、これからは行動です。善隣関係の確立へ、行動に移ろうではありませんか!」

 それから、彼女は、伸一と峯子に言った。

 「ソ連と日本の未来のために、いつまでも元気で活躍してください。決して、無理をしてはいけません。大事な、大事な方なのですから……」

 そこには、優しい母の慈愛があふれていた。

 「大変にありがたいお言葉です。真心が胸に染みます。怖くて優しいお母さん!」

 伸一が言うと、議長の顔に微笑が浮かび、その目が涙に光った。

 心と心が結ばれてこそ、堅固なる人間の連帯が築かれる。

    

 対文連とのコミュニケの調印を終えた山本伸一が、宿舎のロシアホテルに戻ると、日本人記者団が待っていた。

 すぐに記者会見が始まった。

 伸一は記者たちの質問に答え、コスイギン首相やショーロホフとの会談の模様、今回のソ連訪問の成果やソ連の印象などを語った。

 伸一たちは、この日の夜にはモスクワを発って帰国の途につく。

 記者会見が終わると、同行の青年が、東京の学会本部と連絡を取った。

 彼は、すべての公式行事は無事に終了し、日本時間の明十八日の正午ごろには、羽田に到着することを告げた。

 電話に出た副会長の十条潔は、決意のこもった声で言った。

 「先日は、本当に申し訳ありませんでした。万全の態勢で先生をお迎えいたします」