小説「新・人間革命」 懸け橋71  10月23日

実は、学会本部とのやりとりのなかで、こんなことがあったのである。

 山本伸一に同行していた青年が、レニングラードから、学会本部の十条潔に電話を入れた時のことであった。

 十条は、緊張した声で、伸一の帰国の日程を変えられないかと言うのである。

 理由を聞くと、口ごもりながら語った。

 「……羽田に不穏な動きがあるという情報があるんだよ。

 反共・反ソ的な勢力が、空港で先生を待ち伏せして、何かするかもしれないと言うんだ」

 青年は、すぐに伸一に報告した。

 「待ち伏せか……。

 私は、中国、ソ連に、友好の橋を架けようと決意した時から、覚悟を決めている。

 人類を分断してきた社会体制の壁や国家の壁を取り払い、『平和の道』『友誼の道』を開こうというのだから、当然、命がけの開拓作業だ。

 生命をなげうつ決意なくして、世界平和の実現など、できようはずがない。

 それなのに、学会本部が右往左往していたのでは、みっともないではないか!」

 伸一は、泰然自若としていた。彼は、朗らかに笑いながら言った。

 「それに、総大将が城に『帰る』と言っているのに、『ちょっと、待ってください』はないだろう。これじゃあ、戦いにならないよ。私は、予定通りに帰国するよ」

 「はい!」

 青年は、十条に伸一の言葉を伝えた。

 「先生は、予定通り、お帰りになると言われています。何があっても大丈夫なように、万全の態勢で迎えてください」

 「そうですか。わかりました」

 十条は、厳とした伸一の決意を感じ取り、体が震える思いがした。

 以来、学会本部では首脳幹部が心を一つにして唱題に励むとともに、無事故で伸一を迎えられるよう、万全の準備を重ねてきたのである。

  

 部屋に戻ると、峯子は伸一に言った。

 「このソ連訪問は大成功でしたね。皆さんのお題目の力ですね」

 「本当にその通りだ。一千万同志の唱題あってこその大成功だ」

 そして二人は、感謝の祈りを捧げるのである。