小説「新・人間革命」 懸け橋74  10月26日

 山本伸一は、同行の青年の、思いもよらないあいさつに驚いて、口を挟んだ。

 「私のことは、どうでもいいんだよ。皆さんを讃えるんだよ」

 「すみません。どうしても、話さずにはいられなかったんです」

 青年はこう言って、話を続けた。

 「山本先生の訪ソが成功に終わるようにご尽力くださった、ここにいらっしゃる皆さん方のご苦労も、決して忘れることができません。

 皆さん方の部屋もまた、午前二時、三時と明かりが消えなかったことを知っております。

 共に平和のために骨身を惜しまないわれわれの仕事に対して、乾杯を提唱します。ボリショイ・カンパイ!」

 唱和する皆の声が一つになって、高らかに響いた。一緒に行動するなかで、互いの心がとけ合い、平和を担う気概に結ばれていったのである。

   

 遂に別れの時は来た。

 モスクワの秋は一瞬であった。到着した十日前には初秋であったが、白樺も、ポプラも、一日一日、黄葉し、既に吐く息も白くなっていた。

 ホフロフ総長夫妻をはじめ、対文連のイワノフ副議長、そして、学生など、多くの人びとがモスクワのシェレメチェボ空港まで、一行の見送りに来た。

 総長と伸一は、飛行機のタラップの下でも語らいを続けた。

 伸一は言った。

 「このご恩は決して忘れません。

 今度は、ぜひ、創価大学においでください。また、創価学園にもいらしてください。次は日本で語り合いましょう。

 共に力を合わせ、日ソの教育・文化の交流を推進し、平和の大潮流を起こしていきましょう。

 私たちの友情は永遠です。時の淘汰に耐えてこそ、真の友人です。

 今回、お世話になった学生さんたちのことは、生涯、見守らせていただきます」

 総長は、感極まった顔で、伸一の手を固く握り締めた。

 伸一は、決意のこもった声で、宣言するように言った。

 「あとは、行動をもって示すのみです!」

 行動なき決意は虚言である。誓いは実践となって結実する。「誠実の人」とは「行動の人」だ。