小説「新・人間革命」  12月18日 信義の絆42

 この日、ワシントンDCは、朝から雪がちらついていた。

 ドームのある白亜の国会議事堂が、自由の国アメリカの威風を誇示するように、堂々とそびえ立っていた。

 国務省は、リンカーン記念館の近くにあり、ホワイトハウスからも、一キロにも満たない距離である。

 キッシンジャー国務長官山本伸一の会談は、長官の執務室で午後二時半から行われた。

 長官は、フォード大統領の年頭教書の発表を控えて多忙であったが、時間を割いてくれたのであった。

 「ご多忙のなか、時間をつくっていただき、光栄です」

 伸一が言うと、長官はメガネの奥の瞳を輝かせて語った。

 「ようこそ! お待ちしておりました」

 これまで、何度か書簡をやりとりしていたせいか、旧知の友と再会したように、和やかな雰囲気が執務室に広がった。

 「最初に記念撮影をしましょう」

 長官の笑顔に誘われ、共にカメラに納まった。

 伸一はソファに案内された。二人の中間にはアラベスク模様の電気スタンドがあった。その明かりに照らされながら、会談は始まった。

 室内には、キッシンジャーと伸一、アメリカ側の通訳の三人しかいなかった。

 伸一は、まず、アメリカの都市や州から、これまで四十ほどの名誉市民称号を受けていることに対して、御礼を述べた。

 キッシンジャー長官は「それは、私たちにとっても光栄で、嬉しいことです」と、笑みを浮かべて応じた。しかし、激務のゆえか、その顔には、疲労の色がにじんでいるように思えた。

 伸一が現下の国際情勢について話を切り出すと、長官の目が光った。

 伸一は、キッシンジャーが一九六九年(昭和四十四年)の一月にニクソン大統領の補佐官となって以来、その奮闘に目を見張ってきた。

 彼には、時代を読む鋭い洞察力があった。緻密な計画性があった。そして、何よりも、エネルギッシュで果敢な行動力があった。

 第三十五代アメリカ大統領のジョン・F・ケネディは述べている。

 「変革というのは行動なのである」(注)



引用文献:  注 ジョン・F・ケネディ著『ニュー・フロンティア』坂西志保訳、時事通信社