小説「新・人間革命」  12月22日 信義の絆46

山本伸一は、この書簡で、ユダヤポーランド人のジャーナリストであるアイザック・ドイッチャーの、イスラエルパレスチナの在り方についての考えを紹介した。

 ――これまで双方は民族主義を問題解決の手段に用いて失敗したのだから、平和の達成にはこの民族主義を乗り越えなくてはならない。

 そこから伸一は論を展開し、イスラエルが「人間の思想、信条、宗教の自由を保障して、生まれや人種によって差別されることのない民主的な社会を創出していくならば、パレスチナ人との共存は可能である」と述べたのである。

 その実証として、かつては、パレスチナ地域において、イスラム教徒も、キリスト教徒も、またユダヤ教徒も、諸民族が平和的に共存していたことをあげたのである。

 基本原則の二番目に伸一が訴えたのは、「中東和平を進めるにあたり、あくまで武力解決を避けて、交渉による解決を貫くべきである」ということであった。

 中東地域で数多くの戦闘が繰り返されてきたが、なんら問題は解決することなく、一層、事態は泥沼化し、深刻化しているのだ。

 伸一は、それは、既に武力的解決が不可能であることを示していると指摘し、大国の指導者は、武力行使を起こさせないようにしてほしいと、強く要請した。

 さらに、「この中東の危険な発火地に、これ以上の火薬を近づけてはならない」「武器供給に代えて、非軍事面での資金援助、技術援助をこそ行うべき」であると訴えた。

 そして、米ソ英仏をはじめ、多くの石油消費国も参加して、中東地域の平和的な発展を保障し、推進する、「中東平和建設機構」を設けるよう提案したのである。

 三番目には、「平和的解決のための具体的な交渉は、あくまで当事者同士の話し合いによって決定されるべき」であると記した。

 大国の武力を背景にした交渉では、“戦争の合間の和平状態”にしかならない。

 また、双方の軍事力の均衡に破れが生じた時は、前の戦争の和平条件や停戦協定を不満として、新たな戦争が起こってきたからである。