小説「新・人間革命」 人間外交29 4月4日

山本伸一たちは、故宮博物院から北京大学に向かった。着いたのは午後五時であった。

 キャンパスには、春の到来を告げるレンギョウや、ライラック(リラ)をはじめ、黄、白、ピンクなど、色とりどりの花が咲き薫っていた。

 前回、十二月に訪問した時には、木々の葉も落ち、冬枯れていた庭が、まるで花園のように精彩を取り戻していたのだ。

 大学の首脳の出迎えを受けた伸一は、五月一日の公開に向けて準備中の新図書館に案内された。

 「山本先生にお贈りいただいた図書が、どのように納められているか、ぜひご覧ください。先生が外国人として、初めてのお客様です」

 この図書館の敷地面積は二万四千平方メートル、書庫として使える面積は一万一千平方メートル。十階建てと八階建ての建物からなり、三百六十万冊の図書が収容可能であるという。

 図書館の書架の一角には、伸一が寄贈した図書の一部が、分類を表示するラベルが張られて納められていた。

 館長は、頬を紅潮させて言った。

 「これらの本には山本先生の真心が刻まれています。大切に大切に利用させていただきます」

 「ありがとうございます。嬉しい限りです。皆さんの誠実さに感動しております」

 同行のメンバーは、そのやりとりに、真心と真心の共鳴が生み出した、友情の交響詩を聴く思いがした。

 北京大学の訪問は、これで三度目である。どの人も旧知の友のように親しく、また、最大の敬意をもって伸一に接した。

 信頼は、献身の積み重ねのなかで培われていくものだ。

 友情の苗は、その場限りの出会いでは育たない。水や肥料をやり、丹精して苗が育つように、誠実を尽くしてこそ、友情は育つのだ。

 伸一たちは図書館の視察のあと、未名湖のほとりに立つ、木々や花々に囲まれた「臨湖軒」に移動し、大学の首脳と食事をしながら歓談した。

 また、過去二回の訪問で親しくなった、日本語を学んでいる学生や教員など、約百人と語らいの機会をもった。

 会うということは、友好の扉を開くことだ。

 対話することは、心の橋を架けることだ。