小説「新・人間革命」 共鳴音12 5月31日

川崎鋭治は、思い当たるところがあるのであろう。真剣な顔で山本伸一の話を聞いていた。

 「人間というものは、どうしても、人に言われないと、自分の弱い面、悪い面に傾斜していってしまい、挑戦の心を失ってしまうものだ。

 それを打ち破るためには、常に求道心を燃やして、師匠を求めていくことが大事になる。

 師匠というのは、惰性を破り、自身を高めていくための触発の力なんだよ。その触発がないということほど、不幸なものはない」

 ――中国の文豪・魯迅は、「心は、外から刺激を受けないと、枯死するか、さもなければ、萎縮してしまう外はない」(注)と警鐘を鳴らしている。

 伸一の全精魂を注いでの同志への激励は、空港に到着したこの時から、開始されたのである。

 伸一たちは、空港からパリ会館に向かった。

 会館には、百五十人ほどのメンバーが待機し、到着した伸一を、歓声をあげて歓迎してくれた。

 十六日に開催が予定されている欧州友好祭に参加するために、パリに来ていたスウェーデン、スペイン、デンマークの友の姿もあった。

 伸一は、会館で共に勤行したあと、一人ひとりに声をかけながら、懇談的に話を進めた。

 「パリにおじゃまするのは二年ぶりとなりますが、皆さんとは、常に心はつながっております。

 私たちは、“人びとを幸せにしよう”“世界の平和を建設しよう”という同じ心で結ばれた同志であります。

 この心の絆ほど、尊く、麗しいものはありません。そこに、異体同心という善の精神の結合があるからです」

 そして彼は、「それぞれの国の良き市民たれ」と訴えたのである。

 「仏法即社会」である。社会で勝利していくための信仰である。

 「どうか、皆さんは、社会にあって、最も良識豊かな、誰からも信頼、尊敬される一人ひとりになってください。それが広宣流布の力なんです。

 そのために、題目を心ゆくまで唱え、自身の生命を磨き抜いていただきたい。

 また、仏法哲理をしっかり身につけ、どんな試練にも負けない人生観を確立していっていただきたいのであります」