小説「新・人間革命」 共鳴音14  6月3日

デュプロン総長と山本伸一は、教師と学生の断絶という課題についても率直に語り合った。

 総長は、教師は学生との間に交流がなくなっていることを認識し、責任を感じる必要があると指摘して、こう語った。

 「教育にとって大事なのは、“よく聞くこと”です。したがって教授は指導するというより、まず学生の言い分をよく聞くことを考えなければなりません」

 教育の根本は人間交流であり、対話なのだ。

 会談は、人間教育に移り、学ぶことと社会の関係が話題になった。

 伸一は、牧口常三郎初代会長が半日学校制度を提唱し、一日のうち半日は学校で学び、半日は勤労するという制度を主張していたことを述べた。

 総長は言った。

 「そうした勤労を通して、学生は、社会という自己を支える存在があって、自分が勉学に励めるのだと認識することが大事です。そして、その恩を社会に還元し、奉仕していこうという意思があってこそ、勉学と労働の調和があるといえます」

 「恩」という考えは、現代社会から忘れ去られて久しい。しかし、人間は単独では存在しない。親や師、社会などに支えられて生きているのだ。

 それを自覚し、感謝の心をもち、その恩に報いていくなかに人間の道がある。そのことを教えているのが仏法である。

 また、それは、古今東西を問わず、普遍的な真理といってよい。

 さらに伸一は、グローバルな視野に立つ世界市民の育成という役割を、教育は担わなければならないことを訴えた。

 総長は賛同した。

 「言語を媒介としてコミュニケーションを図り、互いの良心を引き出すことが最も重要です。

 その良心の交流によって、互いに理解を深め、善意をいだき合っていくなかで、世界市民としての自覚と結合が生まれていくと思います」

 伸一は、大きく頷いた。

 「そうです。大切なのは、まさに互いの良心を引き出すことです!

 今、世界に必要なものは、魂が共鳴し合い、良心を引き出すような対話です。私は、そのために世界を駆け巡り、対話をし続けております」

 デュプロン総長との教育談議は弾み、深い意義を刻みながら時間は過ぎていった。