小説「新・人間革命」 共鳴音15 6月4日

パリ大学ソルボンヌ校のデュプロン総長と会談した山本伸一は、夜にはパリ会館で、西ドイツ(当時)、デンマークスウェーデンなどからやって来たメンバーを歓迎し、懇談した。

 さらに、第三次訪中の記録映画を共に観賞。終了後には、皆が喜ぶならとピアノに向かい、「さくら」や「荒城の月」などを演奏し、激励した。

 翌十五日、川崎鋭治が一九六一年(昭和三十六年)九月にヨーロッパに渡って、今年で十五年目になることから、その記念の意義も込めた集会がパリ会館で行われた。

 これは、ヨーロッパの中心者として道を切り開いてきた川崎の功労を讃えるために、伸一が提案したものであった。

 この会合には、欧州友好祭に参加するために、ヨーロッパ各地から集ってきた、十一カ国三百人のメンバーが出席。欧州広宣流布十五年の前進を祝賀したのだ。

 伸一は常に、“どうすれば皆が喜び、勇気をもって信仰に励めるのか”“明るく元気に頑張れるのか”を考え続けていた。

 彼の一念も、行動も、日々、友への励ましに貫かれていた。

 励ましとは、安心と希望と勇気を与えることである。相手の生命を燃え上がらせ、何ものにも負けない力を引き出す、精神の触発作業である。

 励ましの本義は、相手の幸福を願う心にある。

 法華経に説かれた不軽菩薩は、あらゆる人びとに対して、礼儀を、誠意を尽くして、礼拝していった。

 「我れは深く汝等を敬い、敢て軽慢せず。所以は何ん、汝等は皆な菩薩の道を行じて、当に作仏することを得べし」(創価学会法華経五五七ページ)

 <私は深く、あなた方を敬います。決して軽んじたり、慢ったりしません。なぜなら、あなた方は皆、菩薩道の修行をすれば、必ず仏になることができるからです>

 つまり、一人ひとりが、最高の人格の輝きを放ち、何ものにも負けない師子王となるのだ。人びとを救いゆく使命の人なのだ――と叫び抜いているのだ。

 だが、人びとは彼を杖や木で打ちすえ、瓦や石をぶつけた。それでも、彼は、それぞれのもつ無限の可能性を教え抜いていったのだ。この不軽菩薩の生き方にこそ、励ましの原点がある。