小説「新・人間革命」 共鳴音17 6月6日

この日、あいさつに立った山本伸一は訴えた。

 「仏法は宇宙の根本法則です。信心に励むということは、その最高の法則通りに生きることにほかなりません。ゆえに、幸福境涯を築けるのであります」

 また、広宣流布とは、万人の幸福と人類の平和の実現であり、その使命に生き抜く人生は、人間として最も尊い在り方であると強調した。

 そして、仏法は「人間革命の道」を説いており、その実証を一人ひとりが示していくことが大切であると述べ、こう話を結んだ。

 「仏法を持った一個の人間が、人びとのため、世界のために、どれほどの仕事ができるか、私は行動で示していきます。

 私の最も大切な兄弟ともいえる皆さんは、私と共に、力強く、人間革命の道を歩み、自らが幸せになるとともに、人びとの幸福のために生き抜いてください。そこにこそ、真の幸福の道があります。

 皆さんが幸せになってくださることが、私の願いであり、日々の祈りであり、喜びであることを知ってください」

 ヨーロッパの同志を思う伸一の真情が、心に響くスピーチであった。

 このあと、伸一は、川崎鋭治に創価学会「副会長」の称号を授与した。出発前に行われた、副会長会議の決定によって贈られたものだ。

 “おめでとう! ムッシュー・カワサキ!”

 川崎と苦楽を共にしてきたメンバーは、心から祝福の拍手を送った。

 先輩であれ、後輩であれ、同志が表彰、賞讃された時に、共にわが事のように、心から喜べるかどうか――そこに自身の境涯が端的に表れるといってよい。

 共に喜べてこそ、真の同志であり、高く大きな境涯の人といえよう。また、皆と団結していくことができる異体同心の信心の人である。

 しかし、同志を羨み、さらには嫉妬したりするのは、名聞名利の心に支配された、低く小さな境涯の表れといえよう。また、異体異心の信心の姿といわざるをえない。

 「君が愁いに我は泣き 我が喜びに 君は舞う」というのが、我らの団結の姿である。小さな自己を乗り越えて、同志の栄光を心から喜べる自分になることこそが、人間革命なのである。



引用文献:

 *小説『新・人間革命』文中の「君が愁いに……」は、「嗚呼黎明は近づけり(大阪高等学校全寮歌)」(作詞=沼間昌教)の歌詞から。JASRAC 出0806808―801。