小説「新・人間革命」  6月7日 共鳴音18

記念の集会に引き続いて、パリ会館で、十一カ国の代表者によるヨーロッパ最高会議が開催された。

 席上、南フランスのプロバンス地方のトレッツに、研修所が設置されることが発表された。

 これは、メンバーの研修会などを行うための施設で、皆の要請をもとに用地を検討してきたが、それが正式に決定をみたのである。

 そこは、眼前に「サント・ビクトワール(聖なる勝利)山」の断崖が屏風の如く連なる、風光明媚な地である。この山を画家のセザンヌも愛し、作品に描いている。

 やがて、ここに研修所が完成し、フランスをはじめ、欧州各地からメンバーが集い、仏法の生命哲理を研鑽し合う姿を思うと、皆の夢は限りなく広がっていった。

 希望あふれる未来構想を祝福するように、メンバーの頭上には、やわらかな日差しが降り注ぎ、やさしい小鳥のさえずりが飛び交っていた。

 パリ滞在四日目となる五月十六日の午前十時、伸一は川崎鋭治と共に、フランスの大統領官邸であるエリゼ宮を訪問し、クロード・ピエール・ブロソレット大統領府事務局長と会見した。背が高く、気品の漂うダンディーな紳士であった。

 初対面のあいさつのあと、伸一が日仏関係など何点かにわたって見解を伺いたいと述べると、事務局長は言った。

「私は会長の行動、平和への努力をよく知っています。また、多数の著作をもつ作家であることも存じております。

 平和の推進は、人類の共通の課題ですが、私は公的な立場にあるため、どうしても、当面する具体的な問題に対して、集中的に取り組まなければなりません。

 しかし、会長は、将来のために、世界はどうあるべきかについて考え、行動してこられた。

 このように異なった立場にある二人が語り合うことは、極めて有意義であると思います」

 伸一は、事務局長が自分のことをよく知ってくれていることに驚きもし、恐縮もした。

 ジスカール・デスタン大統領のもとで、共にフランスの責任を担うブロソレット事務局長は、グローバルな視座と新しい平和の哲学を模索していたのかもしれない。