小説「新・人間革命」 共鳴音22  6月13日

パリ会館の応接室で、山本伸一はペッチェイ博士に提案した。

 「部屋が狭くてすいません。庭がきれいですから、今日は外でお話ししませんか」

 「それはいいですね」

 庭にテーブルとソファを用意し、パラソルを立てて、語らいが始まった。

 博士は、情熱を込めて語り始めた。

 「私は、今まで、『人間性の革命』を唱え、行動してきましたが、それをさらに深く追究していくならば、究極は『人間革命』に帰着すると考えるようになりました。

 この両者の関係について、ご意見をお聞かせください」

 伸一は頷いた。

 「『人間性革命』の大前提になるのが、人間性を形成する生命の変革であると思います。

 その生命の根源的な変革を、私たちは『人間革命』と呼んでおります。

 したがって『人間性革命』のためには、『人間革命』が不可欠であるといえます」

 じっと、伸一の話を聴いていた博士は、「よくわかります。私も今日からは『人間革命』でいきます」と言って笑みを浮かべた。

 そして、人類はこれまで、産業革命など、機械、科学技術の進歩にともなう革命を経験してきたが、それらはいずれも「人間の外側の革命」であることを述べ、こう指摘した。

 「そうして生み出したモノや科学を、なんのために、どのように使うべきなのかという英知は、全く未開発のままです」

 さらに、進歩した技術を人間の幸福と繁栄のために使っていくうえで、何が必要かを、博士は訴えた。

 「それは『人間精神のルネサンス』です。『人間自身の革命』です。

 山本先生は、そのことを以前から主張されてきた。私はそこに着目しておりました」

 大至急、手を打て! まだ、時間があるうちに――それが、博士の叫びであった。

 博士は、伸一の主張はもとより、牧口常三郎の獄死も、戸田城聖の投獄もよく知っていた。そして、牧口と戸田の軍部政府との闘争に触れ、「正義の道を貫かれた」と、賞讃を惜しまなかった。

 伸一は言った。

 「ペッチェイ博士こそ、獄中の闘士だったではありませんか」