小説「新・人間革命」 共鳴音28 6月20日

千田芳人は、日本で半年ぐらい語学学校に通っただけで、フランス語もほとんどできなかった。

 パリに着いた彼は、まず住む部屋と語学学校探しから始まった。

 日本で通った語学学校で知り合い、先にフランスに渡っていた友人に協力してもらい、ようやく部屋を借りた。七階建てのアパートの屋根裏部屋であった。

 また、語学は、パリ大学のソルボンヌ校で講座を取った。

 その同じクラスの日本人学生から、創価学会の話を聞かされた。

 千田の一家は、彼が小学生の時に、学会に入会していた。しかし、千田自身は、何度か会合に参加しただけで、自分が学会員であるという自覚はなかった。

 それでも、日本から遠く離れたパリで、創価学会と聞くと、懐かしい響きを感じ、誘われるままに、ヌイイにあった学会の会館に行ってみた。一九六八年(昭和四十三年)の十二月のことである。

 会館には、ちょうど川崎鋭治がいた。

 川崎は、仏法が最高の生命哲理であることを語り、確信をもって訴えた。

 「この仏法を持ち、真剣に信心に励むならば、必ず願いが叶います。しっかり頑張って、立派なお菓子屋さんになってください」

 千田は、その励ましに温かさを感じた。

 人の心を触発するものは、情熱と真心である。

 また、この時、会館で会ったフランス人メンバーの言葉が、彼の胸に突き刺さった。

 「この最高にすばらしい生命哲学は、日本から起こっているのよ。それなのに、なんで日本人のあなたが、信心に励まないのですか」

 千田は「灯台下暗し」であったと思った。恥ずかしい気がした。

 それは、海外に渡って学会を知り、信心を始めた多くの日本人の、実感であるようだ。

 “そんなにすごい宗教だったのか。もっと真剣に信心すべきだった。本気で取り組んでみよう”

 千田は御本尊を受け、活動にも参加した。

 また、彼は、いつまでも親の仕送りで暮らすわけにはいかないと考え、皿洗いのアルバイトを始めた。

 彼の願いは、菓子作りを学べる、よい修業先が見つかることであり、それを真剣に祈った。