小説「新・人間革命」  8月23日 宝冠34

見事な弦楽四重奏が終わると、再び大きな拍手が響いた。山本伸一は静かに立ち上がり、四人の奏者のもとに行き、握手を求めた。どうしても感謝の意を表したかったのだ。

 そうしたことは、あまり例がないのか、四人は一瞬、戸惑いの表情を浮かべたが、伸一が差し出した手を笑顔で握り締めた。

 さらに、拍手が場内に広がった。

 人間的であることとは、人への感謝の心をもち、率直に、その気持ちを伝えることである。感謝なき人間主義もなければ、自身の思いを表現せぬ無表情の人間主義もない。

 次いで授章式では、伸一への名誉博士号の授章を提案したS・T・メリューヒン哲学部長が立ち、伸一の行動と思想、業績を詳細に語った。

 彼は、伸一の生い立ちから述べ、一九六〇年(昭和三十五年)に創価学会の会長に就任したこと、そして現在、学会は七百五十万世帯を超え、SGI(創価学会インタナショナル)メンバーは世界八十数カ国・地域に広がっていることなどを紹介した。

 また、伸一の平和創造のための提言等の活動、教育事業、世界の学識者との交流、ソ日友好への業績を語ったあと、彼の著作を通して、その思想に言及していった。

「山本会長は、地上の最も価値あるものは人間生命であり、その生命のために戦わなければならないと説いております。

 会長が最も注目を集めているのは人間に関する主張です。人間をヒューマニズムの立場からとらえ、新しい世界を建設するには、まず、新しい人間をつくることが大事であるとし、人間革命の哲学を提唱しております。

 つまり、会長は伝統的な仏法の教義の解説のみならず、それを根本にした具体的実践を示しているのであります。

 以上の業績に対して、モスクワ大学哲学部は、四月の本学教授会で、会長に名誉博士号の授章を提案したものであります。

 最後に、今後の会長の平和事業、友好行動の成功をお祈り申し上げます」