小説「新・人間革命」 宝冠35  8月25日

 続いて、Y・S・ククーシキン歴史学部長が、モスクワ大学教授会として、山本伸一名誉博士に推挙した理由を述べた。

 歴史学部長は、(1)人間性を重視した教育事業による社会貢献(2)核廃絶の提唱と平和運動の展開(3)哲学の研究、とりわけ歴史的な仏教という分野における優れた哲学的著作の発刊(4)小説、詩集を通してのヒューマニズムに富んだ文学の創造(5)これらの諸活動を通しての重層的な人類社会への貢献――をあげた。

 そして、「モスクワ大学から名誉博士号をお贈りできたことを、私たちは、心から喜ぶものでございます」と話を結んだ。

 哲学部長と歴史学部長の話から、モスクワ大学名誉博士号の授章にあたって、あらゆる面から、極めて厳格に審査し、検討、決定した経過を、よく知ることができた。

 伸一は、モスクワ大学の厚意と期待を、厳粛な思いで受け止めた。

 ここで、伸一の謝辞となった。

 彼は深く一礼し、力強い声で語り始めた。

 「私は、ただ今、モスクワ大学からの名誉博士号を謹んでお受けいたしました。

 この栄誉ある貴大学のはからいは、今後の文化交流のためへの称号であると受け止めております。それだけに、重く、深い責任を感じております。

 私は、生涯、この名誉博士号に値する行動を貫き、日ソ友好のために、さらに、さらに、全力を注いでまいることをお誓い申し上げ、御礼の言葉とさせていただきます」

 伸一は、簡潔に話を終えた。祝福の大拍手のなか、再び弦楽四重奏が流れた。

 ホフロフ総長が、嬉しそうに伸一の顔を見て、柔和な微笑を浮かべていた。

 同行のメンバーは、喜びのなかで思った。

 “すごいぞ! 世界屈指の知性の府が先生の業績を正しく評価している。平和貢献をはじめ、先生の人類への業績は、まさに黄金の価値を放っている。悪意をいだき、嫉妬の中傷で泥にまみれさせようとする者がいても、黄金は黄金だ。その光を消すことはできない”