小説「新・人間革命」 宝冠37  8月27日

 山本伸一の言葉には、語るほどに熱がこもっていった。

 「あたかも、凍てついたシベリアの大地にも、春の訪れとともに若草が芽吹くように、忍従を余儀なくされた長き圧制に耐えて、人間解放の歴史の一ページを開いた民衆の、あの不屈の意志と力こそ、私には、ロシアの風土が育んだ、誇り高き特質であるように思えてなりません」

 伸一は、こうした国民性が、ソ連独自の民衆文化を開花させたとして、その象徴的な事例として、ロシア文学に言及していった。

 ゴーリキープーシキントルストイなどをあげながら、ロシア文学の特長は、すべての民衆の幸福、解放、平和という理想の実現を目標に掲げ、民衆という土壌にしっかりと根を下ろし、深く人間性を掘り下げてきたことにあると述べた。

 そうしたロシアの文化は、人類文化の交流に貢献していくべきものであるとし、東西文化の交流に話を進めた。

 そして、かつて東西交流の懸け橋といわれたシルクロードに触れ、その存在が、世界の諸文化に甚大な影響をもたらし、ユーラシア大陸の文化が遠く日本まで、シルクロードを通して伝播している事実を紹介したあと、こう聴衆に呼びかけた。

 「では文化が、かくも広範に伝播、交流をなした要因は、どこにあったのでしょうか」

 伸一は、講演といっても、話を一方通行に終わらせたくなかったのである。彼は、何千人の人の前で話をする時も、常に対話を心がけていた。皆に声をかけ、心を通わせ合うなかで、共感と理解は深まるからだ。

 伸一は、皆が一瞬、思案顔になったところで語り始めた。

 「もちろん、交易、遠征による交わりが、文化交流の糸口になったことは当然であります。しかし、私は、より根本的には、文化それ自体の性格が、交流を促進していったと考えるものであります。実は、ここに、文化というものの特質があると思います」