小説「新・人間革命」 宝冠38  8月28日

 講演では、山本伸一の独自の文化論が展開されていった。

 「本来、文化の骨髄は、最も普遍的な人間生命の躍動する息吹にほかなりません。

 それゆえ、人間歓喜の高鳴る調べが、あたかも人びとの胸中に張られた絃に波動し、共鳴音を奏でるように、文化は人間本来の営みとして、あらゆる隔たりを超えて、誰人の心をもとらえるのであります。

 この人間と人間との共鳴にこそ、文化交流の原点があると、私は考えるのであります。

 したがって、人間性の共鳴を基調とする文化の性格というものは調和であり、まさに、武力とは対極点に立つものであります」

 伸一は、ここで、武力と文化を対比させながら、その特質を論じていった。

 「軍事、武力が、外的な抑圧によって、人間を脅かし、支配しようとするのに対し、文化は、内面から人間自身を開花、解放させるものであります。

 また、武力は、軍事的、また経済的な強大国が弱小国を侵略するという、力の論理に貫かれているが、文化交流は、摂取という、受け入れ側の主体的な姿勢が前提となる。

 さらに、武力の基底に宿るものが破壊であるのに対して、文化の基底に宿るものは創造であります。

 いわば、文化は、調和性、主体性、創造性を骨格とした、強靱な人間生命の産物であるといえましょう。そして、その開花こそが、武力、権力に抗しうる人間解放の道を開く唯一の方途であると、私は考える次第です」

 斬新な文化論に、参加者の誰もが魅了されていった。どの目も生き生きと輝いていた。

 次いで伸一は、シルクロードが八世紀ごろから次第にすたれ、ヨーロッパと極東地域を結ぶ海上ルートが確立されていった経過を語った。そして、話を現代に移し、今や交通網、通信網は目覚ましい発達を遂げ、物と物、情報と情報の交換はあるものの、人間と人間、なかんずく心と心の交流の希薄さを、大きな問題点として指摘したのである。