小説「新・人間革命」  11月21日 新世紀4

 山本伸一は、ただ“すべてに勝って、戸田先生にお喜びいただくのだ”との一念で、働き、戦い、走り抜いた。

 伸一の心には、瞬時も離れず戸田がいた。彼の日々は、瞬間、瞬間、師匠である戸田との対話であった。彼は確信していた。

 “自分の一挙手一投足を、心の奥底を、常に先生はご覧になっておられる!”

 そして、“いかなる瞬間をとっても、常に胸を張って、先生にご報告できる自分であらねばならない”と心に決めていた。

 毎朝、唱題しながら、伸一は誓った。

 “先生! 今日もまた、全力で戦い抜きます。先生のために、必ず勝利いたします。まことの弟子の実践をご覧ください”

 だが、戸田と伸一を襲う風は、激しく、冷たかった。しかも、伸一は胸を病んでいた。発熱も続いていた。厚い困難の壁に阻まれ、呻吟する夜もあった。

 そんな時には、戸田の叱咤が胸に響いた。

 “今が勝負だ! 負けるな! 自信をもって、堂々と突き進め! 戸田の弟子ではないか! 師子の子ではないか!”

 戸田を思うと、勇気が出た。力がわいた。

 自分らしく戦い抜いた日には、伸一の胸には、会心の笑みを浮かべる戸田がいた。

 “よくやった、よくやったぞ!”

 伸一にとって、怠惰や妥協は、自身の敗北であるばかりでなく、師匠を悲しませることであり、裏切りでもあった。

 師弟とは、形式ではない。常に心に師があってこそ、本当の師弟である。心に師がいてこそ、人間としての「自律」があり、また、真の「自立」があるのだ。

 伸一の陰の奮闘によって、戸田は最大の窮地を脱し、一九五一年(昭和二十六年)五月三日、晴れて第二代会長に就任する。

 この日、伸一は、日記に記している。

 「吾人は、一人、集会の中央に、静かに、先生の、先輩諸氏の話を聞き入るなり。十年先の、学会の前途を、見定める青年ありとは、先生以外に、誰人も知らざるを思いながら」