小説「新・人間革命  11月27日 新世紀9

 山本伸一は、戸田城聖の経営していた事業が行き詰まり、戸田が同志に迷惑をかけまいと、学会の理事長辞任を発表した日のことが、思い起こされてならなかった。

 それは、伸一の入会三周年の記念日にあたる一九五〇年(昭和二十五年)の八月二十四日、東京・西神田の学会本部で行われた法華経講義の終了後のことであった。

 戸田は、理事長の辞任を語ったあと、自ら新理事長の人事を発表した。

 当時は、会長不在の時代であり、理事長が学会の一切の責任を担っていたのである。

 戸田の悲壮な決意を聞いた、伸一の衝撃は大きかった。動揺を隠せなかった。

 “創価学会は、そして、広宣流布は、どうなってしまうのか……”

 伸一は戸田のいる部屋を訪れ、これから自分の師匠は、新理事長になるのかを尋ねた。

 即座に、戸田の答えが返ってきた。

 「いや、それは違う! 苦労ばかりかけてしまう師匠だが、君の師匠はぼくだよ」

 伸一の全身に、言いしれぬ喜悦がほとばしった。彼の迷いは、ことごとく吹っ切れた。

 心は決まった。

 創価学会の確信の精髄は、戸田城聖の「獄中の悟達」にある。法華経に説かれた「在在諸仏土 常与師倶生」(在在の諸仏の土に常に師と倶に生ず)の文を生命で読んだ戸田の、「われ地涌の菩薩なり」との悟達こそが、学会の魂である。その戸田という師に連なる時、学会は広宣流布を使命とする「創価学会仏」たりえるのである。

 この時、伸一は決意した。

 “戸田先生は広宣流布の大指導者である。先生に自在に指揮を執っていただかなければ、広宣流布はない。人びとの幸福も、世界の平和もない。よし、私が働いて、働いて、働き抜いて、先生の借金も返済しよう。そして、戸田先生に、会長になっていただこう。それが、弟子である私の戦いだ!”

 伸一は、戸田に「仏」を見ていた。戸田を守るなかに、弟子の道があると思った。