小説「新・人間革命」   11月28日 新世紀10

山本伸一は胸を病んでいた。しかし、戸田城聖を守るために、生命をなげうつ思いで懸命に働いた。

 そして、戸田の事業に新たな局面が開かれ、一九五一年(昭和二十六年)五月三日、戸田は第二代会長に就任するのである。

 その会長就任式の席上、戸田は、生涯の願業として、会員七十五万世帯達成の決意を発表。新生・創価学会は、広宣流布への新たな船出を開始したのである。

 彼は、常に弟子たちに語っていた。

 「広宣流布は、この戸田がする。七十五万世帯は、戸田の手で達成する。君たちも手伝いたいか!」

 戸田は、決して「戦ってくれ」とは言わなかった。自分でやると決めていたのだ。一人立ったのである。弟子たちは、「お手伝いをさせてください!」と、広宣流布の戦いに加わることを、戸田に誓願したのだ。

 だが、その戸田が、ある時、伸一にこう語ったのである。

 「広宣流布は、お前がやるのだ。大聖人の仰せの通りに、立正安国の戦を起こせ! 手伝いをしている気持ちの者が、何万人集まろうが、本当の戦いはできんぞ!」

 戸田は、最終的には、自分と同じく、師子となって一人立つ弟子を、つくろうとしていたのである。そして、その範を示す使命を、伸一に託したのだ。

 広宣流布を成就する力は、師子の団結にある。傍観者の群れや、人を頼み、互いにもたれ合うような烏合の衆では勝利はない。“一切の責任を私がもつ!”と心を定めた、一人立つ師子と師子との結合が大願を成就するのだ。

 自分がすべてを担う、主体者、責任者の自覚に立つ時、勇気がほとばしる。力が出る。英知がわく。執念が燃え上がる。また、その勇猛果敢な実践のなかに、生命の躍動と充実と幸福がある。

 トルストイは言明している。

 「使命に生きる人の人生は、増え続ける幸福の連続である」(注)

引用文献

 注 『トルストイ全集第45巻』テラ(ロシア語版)