小説「新・人間革命」  1月10日 新世紀42

 松下幸之助山本伸一の語らいは尽きなかった。松下は、現代の日本には、国のため、世界のために行動しようという人物がいないと憤ったあと、しみじみとした口調で語った。

 「会長のおっしゃる通りです。根本は人間です。人間をつくらなあきまへん。それが一番大事なことやと思います」

 そして、開学した創価大学の未来に、心から期待を寄せるのである。

 会談の最後に松下は、「これからも、ぜひお会いいただき、ご指導のほど、よろしくお願い申し上げます」と深々と頭を下げた。

 それを制して伸一は言った。

 「とんでもないことでございます。お教えを賜るのは私の方でございます。私の方こそ、ご指南のほど、お願い申し上げます」

 それでも松下は、なかなか頭を上げようとはしなかった。

 さらに、互いに連絡を取る場合、伸一の方は秘書業務を担当している田原薫を、松下の方は、同行してきた関連会社の社長を窓口とすることも取り決めた。

 「田原にご連絡いただければ、一分もあれば、すべて私に報告が入ります」

 伸一の言葉に、松下は驚きの表情を浮かべながら語った。

 「わかりました。私の方も、速やかに対応できるようにいたします」

 ――帰途、車の中で、松下は同行者に、こう語っている。

 「創価学会は迅速や! あれだけの大組織やのに、会長まで、わずか一分で連絡がつくとは……。

 そして会長は、すぐに大胆な手を打って、行動される。さすがや! 学会の強さの理由がよくわかる。うちは私に報告が入るまで、十分以上かかるやろう。もっとかかることもあるかもしれへん。

 君には、私が静養する際の病室まで、すべての電話番号を教えよう。もし、山本会長から連絡があったら、いつ何時でもいいから、直ちに報告してきなさい」

 スピードは一切の勝利の要件である。