小説「新・人間革命」 1月28日 潮流3

七月二十二日の午前十一時(現地時間)前、山本伸一はホノルル空港に到着した。

 ホノルルの空は、快晴であった。海も、大地も、風も、輝いていた。空港にはハワイ州知事補佐官やメンバーの笑顔が待っていた。

 「アローハ!」(ようこそ)

 山本伸一の妻の峯子、そして、伸一に、歓迎のレイがかけられた。

 「ありがとう! 世界平和への本格的な出発のコンベンションにしようよ」

 伸一の快活な声が響いた。

 ハワイに世界平和への旅の第一歩を印してから十五年。伸一は、今再び、このハワイから、新しい平和の大潮流を起こさねばならないと決意していた。

 戦後三十年にあたるこの年、世界の情勢は大きな変化を遂げつつあった。

 東西冷戦は緊張緩和の時代を迎え、七月十七日には、アメリカの宇宙船アポロ18号とソ連の宇宙船ソユーズ19号が大西洋の上空でドッキングに成功。

両国の宇宙飛行士が握手を交わし合う映像が、世界に流れた。

 さらにベトナムでは、一九七三年(昭和四十八年)の和平協定成立後も戦いが続いていたが、この七五年(同五十年)の四月、北ベトナム軍・解放戦線軍が南ベトナムの首都サイゴンに無血入城し、ベトナム戦争にピリオドが打たれた。

 その一方で、中ソの対立の溝は深まり、中東和平も混沌とした状況が続いていた。

 また、六月には、アフリカのモザンビークポルトガルから独立し、先進諸国の植民地のほとんどが独立国家となった。そして、これらの発展途上にある国々が、世界の三分の二以上を占めるようになった。

 それは、「北」と呼ばれる先進資本主義諸国と、「南」と呼ばれる発展途上国の、経済などをめぐる対立を生み、いわゆる「南北問題」を深刻化させていたのである。

 まさに、地球は一つであるとの視点に立った、世界を結ぶ平和創造の新しい哲学が求められていたのだ。