小説「新・人間革命」  2月20日 潮流22

民衆こそが、社会を建設する主役である。そして、科学も、宗教も、芸術も、すべては民衆のために、人間のためにある。

 チャーリー・マーフィーは、平和運動の本当の広がりは、民衆が平和のために立ち上がり、日々の生活のなかで、差別や偏見、憎悪を克服し、あらゆる人びとが信頼と友情で結ばれるなかにあると考えていた。

 彼が、こうした考えをもつようになった契機は、山本伸一の著作との出合いであった。

 マーフィーは、七年前の一九六八年(昭和四十三年)、美術大学の一年生の時に、学友に勧められて信心を始めた。

 彼は、経済的には不自由はなかったが、常に心に空虚さをかかえていた。そのころ、学友が入信し、日ごとに明るく、はつらつとなっていく姿を目の当たりにして、自分も入信したのである。

 そして、アメリカの創価学会に音楽隊があることを知った。小学生の時からフルートを習ってきた彼は、すぐに入隊した。

 音楽隊では、練習のたびに、山本会長が音楽隊に贈った指針の英文を、皆で朗読した。

 「古今を問わず、いずこの国も、いずこの民族も、民衆が幸福と平和をめざして、生き生きと立ち上がっていくときには、その根底に必ず、新しい偉大な思想哲学があった。

 そして、その偉大な哲学の実践は、とうとうと流れる大河のごとく、民衆の息吹きとなり、躍動となって、必ず偉大なる音楽とあらわれ、その民族の大いなる前進のエネルギーとなってきたのである」

 さらに、「清純にして、怒濤をも打ちくだく情熱と、信心のほとばしる音律こそ、大衆の心を打たずにはおかないとの、強き強き確信をもって前進されたい」とあった。

 マーフィーは、芸術は芸術家の内面世界を表現するためのものであり、一般大衆を相手にするものではないと思ってきた。

 しかし、「民衆」が主人公だというのだ。衝撃を覚えた。自分のエゴが打ち破られた思いがした。