小説「新・人間革命」  2月21日 潮流23

チャーリー・マーフィーは、“民衆のための音楽”という、音楽隊に対する山本伸一の指導は、芸術すべてに通じると思った。

 ドイツの大詩人シラーは述べている。

 「あらゆる芸術は人に喜悦を与えるためのものである。しかも、人間を幸福ならしめることこそ、最高のそして最も厳粛な仕事なのである」(注)

 マーフィーは、芸術に限らず、科学、教育、政治など、文化のすべてが、人間のため、民衆のためにあり、民衆こそが時代を建設する力なのだとの確信を深めていった。この考えは、彼の信念となっていった。

 そして、学会の文化祭の舞台設営などを担当する際にも、民衆による平和の創造ということが、彼の一貫した根本のテーマとなっていたのである。

 だから、テレビ局のインタビューに答えた時にも、その考えに基づいて意見を述べたのである。

 彼は、時間があれば、もっと訴えたいことや見てほしいことが、たくさんあった。

 “設営作業にあたっているのは、みんなボランティアです。メンバーには、アフリカ系も、ヒスパニック(スペイン語を話す中南米系)も、日系も、中国系もいます。

 その人たちが心を一つにして団結し、人類の平和と幸福を願って汗を流しています。そのなかに、アメリカ社会がめざしつつも、実現できずにいる、人間共和の縮図があります!”

 “みんな今は、不眠不休で作業に励んでいます。しかし、活力にあふれています。 文句を言う人など誰もいません。

 人に言われたからではなく、自らが主体的に作業に参加しているからです。信仰によって使命を自覚した民衆の力は偉大です。それをよく見ていただきたい!”

 彼は、こう叫びたかった。

 しかし、テレビ局の取材班は、自分たちの聞きたいことだけ聞くと、帰っていった。

 「ブルー・ハワイ・コンベンション」は、マスコミをはじめ、人びとの注視のなかで、着々と準備が進められていった。



引用文献: 注 「悲劇に於ける合唱団の使用について」(『シラー選集2』所収)菅原太郎訳、冨山房=現代表記に改めた。