小説「新・人間革命」  4月14日 波濤1

 「人間主義とは、皆がかけがえのない存在であるという哲学だ。そして、皆を人材として磨き抜いていくことだ。それができるのがわが創価学会である。さあ、人材を育てよう」

 一九七五年(昭和五十年)七月三十一日、ハワイでの一切の行事を終えて帰国した山本伸一は、開催中の夏季講習会の報告を聞くと、側近の幹部たちに力強い声で語った。

 広宣流布の未来を開くために、何よりも必要なのは、新しき人材である。あの地、この地に、幾重にも連なる、雄々しき人材山脈をつくることが、伸一の熱願であった。

 夏季講習会は「希望と成長の講習会」をスローガンに掲げ、七月二十九日に、東京・八王子の創価大学をはじめ、北海道から沖縄までの全国十六会場で開講式が行われた。

 一昨年まで、夏季講習会は、総本山だけを使って行われていたが、より多くのメンバーが参加できるようにするために、昨年から、全国各地に会場が設けられたのである。

 この七五年の講習会は、期間は八月下旬までの約一カ月間で、会場も、最終的には全国三十四会場を使用し、約二十万人が参加することになっていた。

 伸一は、早くも八月二日には、創価大学で講習会の陣頭指揮を執っていた。

 翌三日には、講習会の一環として行われた、人材育成グループ「五年会」の第三回総会に出席し、「諸法実相抄」の一節を拝して指導。

なかでも「日蓮と同意ならば地涌の菩薩たらんか」(御書一三六〇ページ)の個所では、師弟論に言及していった。

 「日蓮大聖人と『同意』であることが、信心の根本です。その大聖人の御心のままに広宣流布の大誓願に生き抜いたのが、牧口先生、戸田先生に始まる創価の師弟です。

 ゆえに、創価の師弟の道を貫くなかに、大聖人と『同意』の実践があります。具体的な生き方でいえば、自分の心の中心に、常に厳として師匠がいるかどうかです。

また、師と向かい合うのではなく、常に師匠の側に立ってものを考え、行動していることです」