小説「新・人間革命」  4月18日 波濤5

苗が地中に深く根を張り、すくすくと伸びていくには、水や、太陽の光が必要である。

 同様に、私たちが信仰者として成長していくには、同志の激励が不可欠である。ゆえに、互いに励まし、触発し合っていく、人間共和の組織が必要となるのだ。

 求道心にあふれた船員のメンバーは、諸外国の港に着くと、電話帳で学会の会館を探して、連絡を取った。

そして、現地の会合などに参加させてもらい、世界広布の息吹を感じ、決意を新たにして、船に戻って来るのである。

 また、メンバーのなかには、長い航海の間、学会活動ができないことから、この仕事を続けるべきかどうか、悩む人もいた。

 しかし、何人かの学会員が乗船している船の場合、様相は一変した。船内で互いに励まし合い、仕事に取り組んだ。

船内座談会も開催され、仏法対話も弾んだ。船内生活のなかで同志から信心を学び、同僚の信頼を勝ち取り、一段と成長した、意気軒昂な姿で、帰港するメンバーも少なくなかった。

 一九六六年(昭和四十一年)の十二月のことである。大阪港の近くにある地区部長宅に三人の青年が集まっていた。五年制の商船高校(当時)を卒業したメンバーであった。

 久しぶりに会った彼らは、航海中の出来事などを語り合っていたが、やがて、外国航路の船員の使命に話が及んだ。

 「海外の人たちとの接触の機会が多い外国航路の船員には、世界広布のパイオニアとなる使命があると思う。そこで大事なことは、どこで信心を磨いていくかだよ」

 「陸にいるときは、地元の組織で頑張ることは当然だが、日ごろ、船内で、どうしていくかだと思う。

 たとえば三十年間、船員を務めるとすると、その間に陸の上にいるのは、三、四年だろう。人生のほとんどを海の上で過ごすのだから、船内は、ぼくたちの信心即生活、仏法即社会の実践の場所ではないかな」