小説「新・人間革命」  4月20日 波濤6

青年たちの語らいに熱がこもっていった。

 「ぼくたちにとって船の中は、人間革命のための戦いを起こし、仏法の勝利の実証を示していく場所だと思う。どこか別の場所に、自分の活躍する広宣流布の舞台があるように考えるのは、間違いじゃないだろうか」

 イギリスの歴史家カーライルは「お前は、いまいる場所で、元気に最後まで、全力をつくし、闘いをつづけるがよい」(注)と書き残した。人生の勝利の道を示す至言である。

 幸福は彼方にあるのではない。自分のいるその場所で、挑戦を開始するのだ。勝利の旗を打ち立てるのだ。その時、どんな逆境も、金色燦然たる常寂光土へと変わるのだ。

 青年の一人が言った。

 「船員のメンバーが使命を自覚し、切磋琢磨していくためのグループをつくりたいね」

 彼らの会話を聞いていた地区部長が、色紙を取り出し、笑みを浮かべて言った。

 「君たちには、山本先生の弟子として、世界広布の開拓者となる使命がある。そこで、その誓いを込めて、署名をしてはどうかね。そして、

君たちと同じ決意に立つ船員がいたらここに署名していくんだ。その広がりが、船員グループの結成の土台になっていくのではないだろうか」

 皆、大賛成であった。

 署名にあたって、その色紙の中央に、皆の思いを象徴する文字を入れようということになった。「勇気」「世界広布」「七つの海の誓い」、さらに、「怒濤」という案が出た。

 すると、地区部長が提案した。

 「『怒濤』もいいけど、『波濤』というのはどうかね。響きもいいと思うが……」

 皆、「怒濤、波濤」と交互に口に出して言ってみた。そして、「波濤」を選んだ。

 色紙の中央に「波濤」と書き込み、三人の青年が署名した。

 “これは山本先生への誓いだ! 世界広布を担う人材に成長しなくては……”

 青年たちは燃えていた。燃えているからこそ、青年であるのだ。



引用文献:   注 『カーライル選集3 過去と現在』上田和夫訳、日本教文社