小説「新・人間革命」  4月23日 波濤9

 一九七一年(昭和四十六年)の夏季講習会には、船員の代表三十七人が参加し、いよいよ、人材育成グループの結成大会が行われることになった。

 山本伸一に、その開催報告書が届いた。そこには、グループの名称は、皆の案として「波濤会」を考えているとあった。

 「『波濤会』か。“海の男”たちの集いらしい、いい名前じゃないか! 万里の波濤を乗り越えて、世界広布に前進していこうという心意気があふれているね」

 そこには、第一期生となる三十七人のカードも添えられていた。伸一は、その一枚一枚を、生命に焼き付けるように見ていった。

 彼の口から、題目が漏れた。皆の航海の無事と成長、そして勝利を念じての唱題であった。

 また、開催報告書とともに、船長帽も届けられていた。二十一世紀へと進む学会の船長ともいうべき伸一に、メンバーが敬意を表して贈ったものだ。

 伸一は、側にいた幹部の前で、早速、その帽子を被り、敬礼して見せた。

 「『波濤会』と一緒に、大航海に出発だ!

 私は、広宣流布の大海原を行く『創価学会丸』の船長だ。人びとを幸福と平和の大陸に運ぶことが、私の使命だ。

 その航路は、常に激浪と嵐の日々だった。これからも、その連続にちがいない。一瞬たりとも気を抜くことなど、許されない。みんなも、その覚悟で私についてくるんだよ」

 そして、つぶやくように言った。

 「もう六年だな……」

 ――伸一は、一九六五年(昭和四十年)二月の、商船高校生たちとの出会いを、懐かしく思い起こしていた。

 その日、伸一が学会本部から車で出かけようとした時、本部の入り口に学生服を着た、三人の青年が立っていた。寒風の中である。

 伸一は、車を止めてもらい、声をかけた。

 鳥羽商船高校の久保田実、寺崎秀幸、そして、富山商船高校の吉野広樹である。皆、商船高校機関科の専攻科一年生であった。