小説「新・人間革命」  5月18日 波濤29

“魔の海域”での、「だんぴあ丸」による「尾道丸」の救助活動は、その後、何度か、テレビのドキュメンタリー番組などに取り上げられた。

 二〇〇三年(平成十五年)五月には、無名の日本人による戦後の画期的な社会貢献事業などを扱ってきた、NHK総合テレビの「プロジェクトX~挑戦者たち~」が、この救出劇を取り上げたのである。

 乗組員の使命感、団結、救出の喜び、両船長の固い友情の絆……。それは、日本中に大きな感動を広げた。

 そこでも、「だんぴあ丸」の船長の、毅然とした態度、的確な判断、真心の行動が光っていた。それは、断じて人命を守り抜こうとする一念から発する、仏法の人間主義の光彩であった。

 マハトマ・ガンジーは、「信仰が、その結果として行動に移されないとしたら、いったい信仰とは、何であろう」(注)と述べている。

 社会貢献にこそ、信仰の実証がある。

 日本の海運業界は、一九七三年(昭和四十八年)のオイルショック以来、先細りの一途をたどっていた。山本伸一は、「波濤会」のメンバーのことを常に気にかけ、峯子と共に題目を送っていた。

 そして、八二年(同五十七年)三月、別の人材育成グループと合同で、第一回の「波濤会総会」を開催してはどうかと提案した。伸一はメンバーを激励したいと思ったのだ。

 この総会は、三月二十八日、東京・立川文化会館で開催された。伸一は、勇んでここに出席し、メンバーの無事故を祈念し、共に勤行したあと、皆の前途を祈りつつ、全精魂を傾ける思いで、スピーチしたのである。

 彼は、初代会長・牧口常三郎の「三種の人間がいる。

――“いてもらいたい人”“いてもいなくても、どちらでもよい人”“いては困る人”」との指導を引き、どこにあっても“いてもらいたい人”になることが、仏法者の生き方であることを力説した。



引用文献:  注 「友との語らい」(『マハトマ・ガンジー全集 70巻』所収)インド政府出版局(英語)