小説「新・人間革命」  5月19日 波濤30

山本伸一は、さらに、「新池御書」の「始より終りまで弥信心をいたすべし・さなくして後悔やあらんずらん、譬えば鎌倉より京へは十二日の道なり、それを十一日余り歩をはこ(運)びて今一日に成りて歩をさしをきては何として都の月をば詠め候べき」(一四四〇ページ)の一節を拝して訴えた。

 「大聖人は『始めから終わりまで、日々、“いよいよこれからだ!”との思いで信心を貫いていきなさい。そうでなければ、必ず後悔することになってしまう』と仰せです。

 そして、『たとえば、鎌倉から京都へは十二日の道のりである。それを十一日余り歩き、あと一日というところで、歩みをやめてしまうならば、どうして、京都の月をながめることができようか』と言われている。

 皆さんは、社会人としてこれからも、さまざまな苦労があるでしょう。行き詰まってしまい、もう自分の人生は駄目なのかと、思うこともあるかもしれない。しかし、何があろうが、信心から離れてはならない。

 苦境に陥った時こそ、祈って、祈って、祈り抜くんです。弘教に邁進し、広宣流布のために戦い切っていくんです。その時こそが、宿命打開のチャンスなんです」

 伸一は必死であった。海運業界は、今後、ますます厳しくなっていくであろうことを、強く感じていた。だからこそ、「波濤会」のメンバーには、どんなに激しい、社会の荒波にさらされようが、断固として、人生の勝利の旗を打ち立ててほしかった。

 「私は十九歳で、戸田先生とお会いして、入信した。若いころ、私は病弱であり、医師からも、三十歳まで生きられない体であると言われていた。しかし、戸田先生と共に、ひとたび決めたこの道を、歩み通そうと覚悟を定め、私は歌を詠み、日記に記した。

 『荒狂う 怒濤に向かいて 撓まぬは

   日の本背おう 若人なりけり』

 これが私の決意でした。また、『波濤会』の決意としていっていただきたい。諸君は苦境のなかで光る人になっていただきたい」