小説「新・人間革命」  6月20日波濤57

山本伸一は、皆に聞いた。

 「あなたたちは、大山巌という元帥を知っているかい」

 誰も答えなかった。知らないようである。

 「大山巌は、日露戦争最大の陸戦とされる『奉天の会戦』を指揮した、満州軍総司令官です。緻密で才知豊かな総参謀長の児玉源太郎らの力を遺憾なく発揮させ、戦いを勝利している。

 この大山には、どんな力があったのか。

 彼については、総司令官といっても飾り物にすぎず、すべてに無頓着であったなどという評価もある。だが、それでは、勝利を収めることはできなかったはずだ。実際には、緻密で優れた洞察力をもっていたと思う。

 しかし、彼は、総参謀長の児玉源太郎らが、やりやすいように一切を任せ、細かい指図などしなかった。

最後は、自分が責任をもつから安心して頑張れという、真の包容力があった。

そして、自分は大局を見ながら、鷹揚に振る舞っていた。この包容力こそが、彼の最大の力であり、魅力であったといってよいだろう。だから、皆がついていったんです。

 あなたたちも、そういう度量の、女性リーダーに育っていくんだよ」

 次は、学内のグループ長をしているという女子学生の質問であった。グループ員が、自分の言うことを聞いてくれないというのだ。

 伸一は、諭すように語り始めた。

 「一つは、題目だよ。一生懸命に唱題していけば、生命が輝く。そうなれば、磁石のように、人を引き付けていくことができ、みんなが、あなたの言うことを聞くようになっていくよ」

 すると、彼女は、困惑した顔で言った。

 「しっかり題目を唱えて会いに行くんですが、『折伏をしましょう』『お題目をあげましょう』と言うと、はっきり『できません』と断られてしまうんです」

 伸一は、笑みを浮かべた。

 「それは、結論を急ぎすぎるからです。まず、心を通わせ合うことだよ」