小説「新・人間革命」  7月20日 命宝19

山本伸一は、情熱を込めて訴えた。

 「『心の財』は、精神的な健康です。『心の財』から、生きようとする意欲が、希望と勇気が、張り合いが生まれます」

 その「心の財」は、人びとの幸福のために、さらに言えば、広宣流布のために生きることによって、築かれるのである。

 スイスの哲学者ヒルティは、「たえず新たにみなぎってくる健康な力は、大きな目的にささげた非利己的な活動から生ずる」(注)と述べている。

 「人は、この『心の財』を積んでいくなかで、生きることの尊さを知り、エゴに縛られた自分を脱し、人びとの幸福という崇高な目的のために、生き生きと活動していくことができるのであります。

 しかも、こうした精神的な健康の確立が、どれほど大きな、身体上の健康回復、健康増進の力となっていくか、計り知れないものがあります。いな、心の健康なくしては、本当の健康はない。

それを、広く社会に認識させていくべきであると思うのであります」

 また、伸一は、心の健康を確立していくという医学の在り方は、単に病気を治療するという"守りの医術"ではなく、健康を保持し、増進していく"攻めの医学"の確立につながっていくと述べた。

 そして、これからは、病気をしないという消極的な意味での健康ではなく、生き生きと活動し、生命が躍動しているという、積極的な意味での健康をつくりあげていくことこそが重要であり、そこに、ドクター部の使命があると力説。最後に「『病気の医師』ではなく、『人間の医師』であっていただきたい」と呼びかけ、スピーチを結んだのである。

 大拍手が轟いた。

 彼の話は、現代医学の進むべき道を示すものであった。それは、ドクター部の使命を再確認する、永遠の指針となったのである。

 後に、この九月十五日は「ドクター部の日」となり、年ごとに、同部のメンバーが新出発を期す記念日となるのである。



引用文献:  注 『ヒルティ著作集1 幸福論I』氷上英廣訳、白水社