小説「新・人間革命」  7月28日 命宝25

山本伸一は、十一月五日に東京を発って、京都に行き、フル回転で諸行事をすますと、七日の夕刻、新幹線で広島入りした。広島市は、六年八カ月ぶりの訪問である。

 市内の東区に立つ、広島文化会館に到着したのは、午後五時過ぎである。

 この文化会館は、十一月三日に落成したばかりであった。

 太田川の清流を望む、鉄筋コンクリート五階建ての建物は、明るいブラウン調の総タイル張りで、敷地面積は約三千平方メートル、二階の大広間は二百十三畳という、当時としては、堂々たる大法城であった。

 広島文化会館では、多くの同志の笑顔が出迎えてくれた。

 「落成、おめでとう!」

 伸一は、歓迎の花束を受け取ると、メンバー一人ひとりに声をかけていった。

 そして、そのまま、文化会館の館内を視察した。

 一部屋ずつ、ドアを開け、中にいる人を激励しながらの視察である。

 彼は、広島の中心者に言った。

 「どこに何があり、誰がいるか――指導者というのは、それを、すべて知ったうえで、指揮を執っていくんです。そのためには、ほんのわずかな時間も活用して、自ら足を運んで、回ってみることです。

 それは、一切の戦いに言えます。その努力を怠り、人の話を聞いて事足れりとするところから、惰性、官僚主義が始まる。幹部が最も戒めなければならないことです」

 寸暇を惜しんでの、全力の指導であった。

 館内で行き交う人は、皆、喜びにあふれ、はつらつとしていた。

 「みんな嬉しそうだね。立派な会館ができて、本当によかった。戸田先生が、この文化会館と、生き生きとした同志の姿をご覧になったら、どれほどお喜びになったことか。

先生に代わって、私がみんなを励まし抜くよ」

 「師に代わって」――その自覚こそが、真の弟子の心である。