小説「新・人間革命」  8月26日 命宝49

十一月十一日は、呉会館に、そして、隣接する寺院に、朝からメンバーが集ってきた。

 また、中国婦人部長の岡田郁枝や、東京の幹部らも会館を訪れた。もし、山本伸一が呉会館を訪問することになった場合に備えての、下見であった。それを見て、呉の同志は、伸一の呉訪問に確信をもった。

 一方、山本伸一は、広島文化会館での、落成を記念する親善卓球大会などに出席し、同志の激励に余念がなかった。

 また、広島の幹部らとも懇談し、リーダーの在り方について、あらゆる角度から指導。そのなかで彼は、広宣流布は時間との闘争であることを強調し、こう語った。

 「幹部は、全力で動き抜くんです。今回は難しいが、私は呉も訪問したかった」

 それを聞いた幹部が呉会館に電話を入れ、山本会長の呉訪問はないと伝えたのである。

 広島文化会館に戻ることにした岡田郁枝が、呉の婦人部の竹島登志栄に言った。

 「残念ね。今回は、山本先生のご訪問はないそうよ。いつか、必ず、先生をお呼びする決意で頑張りましょうね」

 岡田たちは、慌ただしく帰っていった。

 山本会長の訪問はないという話は、呉会館に集っていた人たちにも伝えられた。皆、肩を落とした。それでも唱題をする人もいれば、がっかりした顔で家路につく人もいた。

 呉の婦人部の幹部は、会館の一室に集まり、涙しながら、語り合った。

 「でも、あきらめるのは早いわ。先生は、まだ広島におられる」

 「そうよ。明日だって可能性はあるわ」

 もちろん、伸一の予定もある。訪問が実現しないこともあるかもしれない。しかし、それが、祈り抜いた結果であるならば、そこには、必ず、深い意味があるのだ。

 彼女たちは、ともかく、最後まで、絶対にあきらめずに、祈り切ってみようと決めた。

 「勝つ」とは、決して「あきらめない」ということだ。烈風に、いや増して燃え盛る、炎のごとき不撓不屈の闘魂が、勝利を開くのだ。