小説「新・人間革命」  8月28日 命宝51

午後四時前、山本伸一の乗った車は、呉会館の隣にある寺院の前で止まった。会館をはじめ、この寺院にも学会員が集まり、さらに、近くの公園にも、たくさんの人がいた。

 伸一は、公園の前まで行き、皆に手を振りながら言った。

 「皆さんに、お会いしにまいりました」

 それから彼は、寺院に向かった。本堂は、ぎっしりと人で埋まっていた。

 伸一が姿を現すと、大歓声があがった。

 彼は、皆と一緒に、厳粛に勤行したあと、懇談的に話を進めた。

 「今日は、皆さんとお目にかかれて、本当に嬉しい。呉の訪問は、私の念願でした。

 日夜、広宣流布のために頑張っておられる皆さんは、仏の使いであり、最も尊貴な方々です。なかなかお会いできませんが、お一人お一人を、抱きかかえるように激励して差し上げたいというのが、私の真情なんです。

 しかし、実際には、そうもいかないので、皆さんのご健康とご一家の繁栄を祈って、毎日、妻と共に真剣に題目を送っております」

 伸一は、一人ひとりの顔を心に焼き付けるように、視線を注いでいった。

 お年寄りの姿を見ると、声をかけた。

 「お会いできてよかった」

 すると、「ありがとうございます!」という、元気な声が返ってきた。

 「中国方面のなかで、私は、呉が一番、元気があると思うんです。でも、これは、ほかの地域の人には、黙っていてくださいね」

 どっと笑いが広がった。

 「明るいね。功徳は受けていますか」

 「はい!」

 皆が答えると、伸一の顔がほころんだ。

 「私にとって、それが最高の朗報です。幸福になるための信心ですから。

 信心の労苦は、歓喜の種子、幸福の種子なんです。広宣流布のために流した汗は、すべて、福徳のダイヤモンドとなります。自身の、そして、一家の幸せのために、宿命の転換のために、懸命に戦うんです」