小説「新・人間革命」   8月29日 命宝52

愛する呉の同志の、幸福を祈りながら、山本伸一は話を続けた。

 「長い人生であり、長い広宣流布の旅路です。いろいろな困難もあるでしょう。

しかし、その時が、宿命転換の、人間革命のチャンスなんです。"負けるものか!"と、不屈の闘魂を燃え上がらせて、信心を貫いていくことです。

 そして、ひたぶるに、お題目を唱え、広宣流布に走り抜いていくんです。信心に行き詰まりはありません。私も、唱題第一で、ここまできました。

 祈れば、自分が変わります。己心の仏の生命が開かれ、周囲の人も変えていくことができる。さらに、大宇宙が味方します。

 ところが、いざ困難に出くわし、窮地に立たされると、"もう駄目だ"とあきらめてしまう。しかし、実は、困難の度が深まれば深まるほど、もう少しで、それを乗り越えられるところまできているんです。

闇が深ければ深いほど、暁は近い。

 ゆえに、最後の粘りが、勝利への一念を凝縮した最後の瞬発力が、人生の勝敗を決していくんです」

 彼の声に、熱がこもっていった。

 「生死即涅槃と説かれているように、人生には、常に苦悩があります。仏も、一切衆生を救うために、悩み抜かれています。

 悩みがなくなってしまったら、人生は全く味気ないものになってしまう。おなかが空くから、ご飯がおいしい。月給が安くて生活が大変だから、昇給すれば幸福を感じる。大変さのなかにこそ、喜びがあるんです。

 成仏というのは、なんの悩みもなく、大金を持ち、大邸宅に住むことではありません。

歓喜にあふれ、生命が脈動し、何があっても挫けない、挑戦の気概に満ち満ちた境涯のことです。広宣流布に生き抜くならば、一生成仏は間違いありません」

 伸一は、皆に、断じて幸福になってほしかった。信心の醍醐味を実感してほしかった。皆が、人生の勝利者になってほしかった。