随筆 人間世紀の光 No.210 ㊦ 崇高なる信心の継承 2009-11-6

麗しき交流の歌声
 1991年の12月、私は懐かしき大田文化会館での第1回川崎文化音楽祭に出席した。晴
れやかな希望の祭典であった。
 数ある演目のなか、ひときわ大きな喝采が送られたのが、今の多宝会である指導部のメ
ンバーと、少年少女部が一緒になっての「お月さまの願い」の合唱であった。本当にほほ
笑ましい学会家族の和楽の姿に、感動が広がった。
 勉学、仕事、学会活動の最前線で戦いながら、世代を超えて、皆が集って練習を重ねる
のは大変だ。
 しかし、若々しい多宝会の方々に励まされながら、少年少女は温かな学会の世界の心を
呼吸していった。
 そして伸びゆく未来部の姿は、壮年・婦人の方々に「さあ、頑張ろう」と生命の息吹を
送ったのである。
 信心の大先輩と、その後継の友が、一つの目的に向かっていく歌声は、あまりにも偉大
な信心継承の行進曲であった。
 座談会もまた、世代を超えて、人と人を結ぶ。
 親がいない青年もいる。子を持たない壮年、婦人もいる。しかし、座談会で学会家族に
会える喜びが、一人ひとりを元気にする。
 日蓮大聖人は、子どものいなかった佐渡の年輩の国府入道・尼御前に、書き送っておら
れる。
 「『その中の衆生は、悉く是れ吾が子なり』との経文の通りであるならば、教主釈尊は入
道殿と尼御前の慈父であられる。
 日蓮はまた、あなた方の子であるはずである」(御書1323㌻、通解)と。
 この大聖人の大慈大悲に連なって、少年少女部、中・高等部、そして男女青年部から、
多宝会の壮年・婦人まで、老若男女が生命の家族として集い合う世界が、学会であり、座
談会である。温かく楽しい、活気に満ちた仏の会座そのものの座談会こそ、永遠に広布発
展の要である。
        
 「父祖に負けない気持ちになって、いま、ぼくははるかかなためざして行く。父祖の栄
誉を、ぼくはけっして忘れえぬのだ」
 イギリスの青年詩人バイロンは高らかに歌った。
 壮大な事業を達成するためには、青年が先駆者の魂を受け継ぎ、次世代に伝えていかね
ばならない。

若さには勇気が!
 米国の黒人(アフリカ系アメリカ人)が自由を求めた闘争も、世紀を超え、世々代々に
継承されてきた。
 1860年代の南北戦争を境に、黒人奴隷制度撤廃の声が広く唱えられる。第16代リンカ
ーン大統領の
 「奴隷解放宣言」は解放運動の烽火を上げたが、人種差別は公然と続けられた。
 1955年暮れ、公営バスでの非道な人種差別に、私たちの敬愛する人権の母ローザ・パー
クスさんは、一人、「ノー!」と声を上げ、毅然と抗議した。
 彼女の不当な逮捕を機に、目覚めた市民は団結し、バス・ボイコットなど、非暴力抵抗
運動を開始した。アラバマ州モントゴメリーを拠点として、正義の声は燎原の火の如く全
土に広がっていったのである。
 先頭に立った、若きキング博士が訴えた信念とは何か。それは“青年の糾合なくして、
戦いの勝利はない”との確信であった。
 その熱情は、私も痛いほどわかる。海の向こうで、キング博士たちが戦っているその時、
私も関西の天地で、青年を糾合し、新しき同志をもり立て、正義の大民衆運動を指揮して
いたからである。
 経験の浅い若い人間を加えることを、嫌がる人もいる。しかし、キング博士は微動だに
しなかった。
 「若いひとたちは、われわれの呼びかけに応じる勇気をもっている」
 次々に青年が立ち上がった。体の不自由な若者も勇んで運動に参加した。キング博士は
「若さ」を偉大な徳と信じ、戦いの原動力と見たのである。
 若いということは、何でもできるということだ。
 ボイコットに協力する人の中に、高齢の婦人がいた。「なぜ、あなたまでも」──問われ
て、婦人は答えた。
 「私は、私の子や孫のために歩いているのです」
 その願いに応えて、この人権闘争で最も活躍したのは、老婦人の子や孫にあたる世代た
ちであった。
 1964年、「公民権法」の制定により、黒人差別は法の力のもと、ついに撤廃される。
 青年の可能性を信じ、その育成に全力を注ぐ先人たち。そして人生の大先輩から学び、
その薫陶に感謝し、戦いの先頭に勇み立つ青年たち──。
 世代を超えた者たちが一つになり、総立ちになった時、新しき歴史の扉は、勢いよく開
かれるのだ。
 「青少年を手助けする活動は、仕事でなく、責任だと思っています。私は、青少年と一
緒に何かをすることの必要性をいつも感じてきました」──微笑みの勝利の母ローザ・パ
ークスさんの忘れ得ぬ一言である。
        
 広宣流布の闘争においても道なき道を切り開いた先輩たちの功績を絶対に忘れてはなら
ない。その深い感謝を胸に、今度は青年が立ち上がるのだ。
 南条時光への御聖訓には、こう仰せである。
 「とにかくに法華経に身をまかせ信ぜさせ給へ、殿一人にかぎるべからず・信心をすす
め給いて過去の父母等をすく(救)わせ給へ」(御書1557㌻)
 妙法弘通の大願に生き切る青春のなかに、父母への孝養も、お世話になった方々への報
恩も、そして自他共の未来の幸福の創造も、一切が包含されている。
 詩人バイロンは叫んだ。
 「ああ、私に、物語のうちの偉大な人の名など語るな/われわれの青春の日々こそ栄光
の日々だ」
 今いる場所で勝利を!
 そう誓い、祈り、走り、戦い、勝つのが青年だ。
 私が信頼する若き友よ!
 偉大なる信力を奮い起こし、永遠不滅の勝利の城を築きゆくのだ!
 青年よ、勝ちまくれ!
 母たち、父たちの願った民衆勝利の朝を、威風も堂々と開きゆけ!

 断固して  わが人生を  勝ちまくれ  父母《ちちはは》 思い  同志を思いて

 巴金の言葉は『巴金回想録』 『巴金選集』=中国語版。バーンズは『バーンズ詩集』
中村為治訳(岩波書店)=表記は新字に改めた。バイロンは順に『世界の詩集4 バイロ
ン詩集』斎藤正二訳(角川書店)、『世界の詩7 バイロン詩集』阿部知二訳(彌生書房)。
キングは『黒人はなぜ待てないか』中島和子・古川博巳訳(みすず書房)。ほかに『自由へ
の大いなる歩み』雪山慶正訳(岩波書店)などを参照。パークスは『勇気と希望』高橋朋
子訳(サイマル出版会)。