小説「新・人間革命」 12月12日 未来22

 山本伸一は、懇談のあとも、札幌創価幼稚園の園内を回り、園長の館野光三らの要請に応えて、廊下などに名前を付けた。

 遊戯室に通じる廊下は「虹のトンネル」、園庭にある小山は「王子王女の小山」、そして、青い屋根の鳥小屋は「ぼくたちの小屋」と命名した。

 また、彼は、「つよく ただしく のびのびと」との札幌創価幼稚園のモットーと、「笑顔」という言葉を、それぞれ色紙に認めて贈った。

 そして、伸一は、心弾ませて、翌日の四月十六日の、入園式を迎えたのである。

  

 園児を出迎えるため、幼稚園の玄関に立っている伸一を、真っ先に見つけたのは、園児に付き添ってきた母親であった。

 「先生!」

 驚きと喜びの表情で、駆け寄ってくる母親に、伸一は諭すように言った。

 「今日の主役は、お母さんではなく、お子さんですよ」

 伸一は、かがみ込み、母親の脇でたたずむ子どもに向かって、優しく語りかけた。

 「よく来たね。入園おめでとう。立派になるんだよ」

 そして、抱き寄せ、頬をさすり、一緒に記念のカメラに納まった。

 それから、伸一は、ロビーのイスに腰掛けて、子どもたちを迎えた。園児と同じ目の高さで、語りかけるためである。

 その姿を見ていた創価学園の理事長の青田進は、感嘆しながら、園長の館野に言った。

 「先生は、ここまで考えて、園児たちを迎えてくださっている。館野さん、これが、創立者の心なんですね」

 館野は、その姿を、しっかりと眼に焼き付けた。そして、「創立者の心」を伝えるために、彼も翌日から、門のところで、園児たちを笑顔で迎え、見送った。雨の日も、雪の日も、立ち続けた。

それは、札幌創価幼稚園の伝統となって、今日も受け継がれている。